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教え込む指導が、子どもの「成長可能性」を奪っている

こんにちは、強化育成システム,東欧スポーツトレーニングシステム,ジュニアユースの育成やフィジカルトレーニング、スポーツや運動学習などを研究,講演活動をしている「小俣よしのぶ」です。

以前私が執筆しました記事、 『子どもの「運動スキル」を指導するための3つのポイント』 が反響をいただき、セミナーや講演の際に記事の内容に関してのご質問や説明を求められたり、さらにこれをテーマにしたセミナーや講演依頼をいただくことが増えました。

しかし、ご質問やご要望の中には記事の内容を正確にご理解されていなものもあります。

最も質問の多い、あるいは誤認の多いポイントが記事内で触れている「教え込まない」についてです。

特に「特定競技の専門的スキルを教えてはいけないのか?」や「基礎的な型やスキルを教えないと上達しないだろう?」などのご質問をいただきます。

記事の内容が正しく伝わっていない状況で、子どもやジュニアユース選手に教育や指導が行われることは記事の主旨に反することです。

そこで今回は指導のための3つのポイントについてさらに詳しく、スポーツスキルの習得とそれに影響を及ぼす発育発達を中心に述べたいと思います。

最も基本の「教え込まない」について

まず「教え込まない」を理解できると、残りふたつのポイント「はみ出す」「完成させない」につながります。

「教え込まない」とは運動や技術の全てを手取り足取り教えないということです。

以前の記事 の中でも触れましたが、「感じ取る体験」が重要です。

しかし、指導者や親、またはスポーツスクールでも、教えてできるようにしてやりたい、あるいは指導者の理想のフォームに当てはめようとしたり、指導プログラムに沿って指導をします。

例えば、走る、投げるという運動課題があったとします。

かけっこ教室や野球スクールで教わると、

  • 走る時の基本姿勢
  • 脚を挙げる高さや膝の使い方
  • 脚の接地時のフォーム
  • 腕の振り

野球スクールではボールの握りから始まり、

  • 投げる前の準備姿勢
  • 肘の高さ
  • 前足を出す位置と向き
  • リリースポイント
  • グラブ側の手の使い方
  • フォロースルーの形

などを事細かく指導されます。

これでは指示が多すぎますし、指導通りのフォームを習得させる「型」の習得が目的化してしまいます

その結果として課題の運動や技術は身に付く場合もありますが、習得段階で得られる運動体験やコツの習得が起こらない可能性もあります。課題は単なる走る、投げる基本運動なのですが……。

指導書のフォームや型の問題点

確かにフォームを作る場合には反復練習によって型を作ることは必要です。しかし、指導書にあるようなフォームや型は一般的で平均的なものです。

言い換えると子どもや選手の個別的条件、具体的には背の高さ、力の強さ、器用さなどの身体形態や体力の特徴、発育発達度合い、運動体験などは考慮されていません。

人間はそれぞれ異なった身体形態や体力の特徴を持っており、さらに成長段階では発育発達に伴い、それらが変化します。

人それぞれ顔つきが違ったり、兄弟姉妹でも性格が異なったり、背の伸び方が子どもによって違っていたりすることと似ています。

この個別的差異が運動学習やフォーム習得などに影響をします。

例えば走る場合、身長の高い選手や子どもは身長に対して四肢(腕脚)も長くなりますのでストライド(歩幅)も長くなる特徴を持っています。一方、身長が平均かそれ以下の子どもはストライドでは脚の長い者に負けますが、ピッチ(脚の回転)を上げて脚長のハンデを補えます。

またボール投げなどでは上肢の長さを利用して投げる高身長に多いタイプ、力発揮に依存して投げるエネルギー系体力が優れているタイプなど、さまざまです。

また、成長する中で急激に身長が伸びたり、体重が増えたり、力が増したりするとこれまでの特徴や条件が変わりますので、それがフォームに影響すれば上記のタイプも変わります。

これら運動の全て自分の身体形態体力、発育発達、運動体験などの特徴や条件を駆使して行っているもので、それぞれの特徴と条件における多種多様なフォームがあるということです。

「パフォーマンス構造」という考え方

少し専門的になりますが旧東ドイツのトレーニング学に「パフォーマンス構造」という考え方があります。パフォーマンス構造とはパフォーマンス(=結果)の背景にある個別的要素の仕組みです。

言い換えると結果(パフォーマンス)と、その結果を導き出した個人の持っている前提条件(パフォーマンス前提)です。前段の身体形態体力などがパフォーマンス前提にあたります。身体形態や体力に変化が生じるとパフォーマンス構造全体に影響します。

スキルをパフォーマンス(=結果)と考えると、前提条件である身体形態や体力が発育発達などによって変化するとパフォーマンスも変化するということです。

成長期にある子どもやジュニアユースの選手達は、まさに著しい発育発達の最中にあり、パフォーマンス構造が変化しやすい状態です。

繰り返しになりますが特に思春期には急激に身長が伸びます。身長が伸びれば四肢も伸びます。大きくなった身体を動かすためにエネルギー発揮も変わります。そうなるとこれらの再調整をして身体操作性を高めなければなりません。

急激に身長が伸びる時期に「クラムジー」と言われる現象が起こります。これは身長や体重の急速な伸びに伴い身体操作や感覚に変化が生じることです。

身長が伸びることで四肢も長くなります。長くなったことで身体操作に変化が生じて運動能力が低下したりします。力学的、神経生理学的、運動学習的な適応に時間がかかり、身体の操作性が対応できなくなります。急に重くなったり、伸びた身体や四肢を使いこなすまでに時間を要することがあります。その段階でスキルも変化をします。

したがってスキルを教え込んでも成長に伴い変化してしまうので、作り直しをしなければなりません。

無謀な指導のないキューバの育成システム

野球強豪国のキューバでは発育発達に合わせて習得するスキルがガイドライン化されています

ご存知の方は少ないと思いますがキューバは国策として組織的、科学的にスポーツの強化を図っており野球も強化種目となっています。その強化システムでは、選手の選抜育成システムに加えて指導者養成システムも完備されています。

有能な野球選手を選抜し育てるために指導ガイドラインとそれに従い指導する指導者養成をおこなっています。そのガイドラインの中に例えば年齢と体力レベルによって守備範囲が定められています

守備範囲が広がればそれだけ一塁への送球距離も長くなったり無理な体勢から投げたりしなければなりません。

その結果、フォームを崩したり、さらにケガにつながったりします。

このようなガイドラインを設けるのも身体形態や体力などの成熟度合いに合わないスキルを教えようとすると発育発達やパフォーマンス構築の阻害やケガにつながる恐れがあるためです。

指導者の好みや勝手な考え、無謀な指導で将来性のある選手を潰さないための仕組みでもあります。

子供の成長可能性を残すこと

このように考えると若年層でスキルを完成させる必要はなくなります

ここが「完成させない」ことが指導のポイントである理由です。

完成させてしまうと変化に対応できなくなります。若年層で習得したフォームは,小学生レベルでしか通用しないスキルや癖の着いたフォームなどと言えます。そしてスキルの組み替え、言い換えると高度なスキル習得が必要になったときに組み替えや習得のために,その基礎となる運動スキルや運動体験が求められます。

これらは型から「はみ出す」ことで得られる体験です。特定の投げ方ばかりをするのではなく、さまざまな投げ方や異なった物を投げることが重要です。

サイドスローやアンダースロー、非利き手側、投げる物に回転をかけて投げる、またボールの形状、さらにボールだけではなく石ころ、フリスビー、ブーメランなど。

さまざまな運動体験を持っておくことで、その運動がスポーツの専門的スキルに転化したり、コツやカンが新たなスキル習得の手助けをします。

成長がひと段落して、身体形態変化が落ち着くまでは、いつでもスキルを変えられるようにゆる~い型の中にあるイメージです。

このゆる~い型が「教え込まない」「はみ出す」「完成させない」です。

そして発育発達がひと段落し、競技レベルを高度化させる時期が来たら一気に完成させられるようにしておくことが肝心です。

指導者、保護者の皆さん、若年層の段階でキャンバスの全てを塗りつぶす必要はありません。白紙の部分をずいぶん残しておくことが子供の「成長可能性」なのです。