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【Rock and Hammer】NBAきっての名将から学ぶ Part.2

GREGG POPOVICH(グレッグ・ポポビッチ)

こんにちは、ダイス・ヤマグチです。

綺麗だった桜もあっという間に散り、緑が溢れ出していますね。

夏が少しずつ近づいているのを感じます。ビールが美味しい時期です!盛り上がっちゃいますね!

先日はサンアントニオ・スパーズのプレーオフ一回戦の第四試合目が行われていました。第2シードでありながらタフさが売りの第7シードのメンフィスに延長戦の末負けを喫し2勝2敗。

悔しくてたまりません。もう働いていないのにこんなに悔しがる自分に呆れてしまいます。

さて、前回より書いているスパーズの「ポップ」ことグレッグ・ポポビッチHCのリーダーシップ。

後編である今回は前回の記事と僕自身のポップとの体験談を交えながら、”あなたがリーダーに生まれ変わるとき(Developing the Leader within You)”という本に記載されているリーダーシップの5つの段階と、NBAでのポップのリーダーシップを照らし合わせて話を進めていきたいと思います。


2020東京オリンピックでチームUSAのHCとなる事が決まっているポップ。NBAのスーパースター軍団に対しても普段と変わらない彼のスタイルでの指揮が予想される。↑出典:Popovich to coach Team USA

TRUE LEADERSHIP(真のリーダーシップとは)

ジョン・C・マクスウェル(John C. Maxwell)の”あなたがリーダーに生まれ変わるとき”という本では真のリーダーシップには次の5つの段階がある、とあります。

1.役職:権力。人は義務的にリーダーのサポートを行う。
2.同意:人間関係。人はリーダーに好意を持ち、サポートをしようと思う。
3.生産:結果。人はリーダーが組織のためにとった行動を称賛し、サポートをしたくなる。
4.人材育成:再生産。人はリーダーが彼らのために行った行動を感謝し、忠誠心を持つ。
5.人となり:尊敬。人はリーダーの人間性、普段の行いに賛同し、リーダーについていく。

これらの5段階がどういう意味を持つか、詳細についてもう少し掘り下げて考えて行きましょう。

役職(権力)

ここに関して説明はあまりいらないと思います。ヘッドコーチとはチームにおいてトップのポジションに当たります。

ましてや世界最高峰のプロバスケットボールリーグに所属するチームのHCでいるだけで多くの人々や選手が彼の指導を仰ぎたくなるのは想像できますね。

でも、弱小のディビジョン3の大学チームでHCの場合はどうだったのでしょうか。前回の記事を読む限り、最低でもHC就任当初はそこまで強い権力があったようには思えません。

同意(人間関係)

ポモナ・ピッツァーでは、度々選手を自宅に招いて食事を振舞う、選手の家族を思って手紙を書く、選手の両親が息子の活躍を観れるように試合に出す、マネージャーが生徒会長になれるように後押しをする、などポップがバスケットボールとは少し離れたところで選手やスタッフに対してケアをしていたのがよくわかります。

そうした人間関係があったからこそ何があってもチームは彼について行ったのだと思います。

スパーズでもシーズン前後には必ずチーム関係者全員と家族を彼の自宅、または彼のお気に入りのレストランに招いて好きなワインと食事を振舞ってくれました。

僕と妻が会場に足を運ぶと毎回必ずと言って良いほど僕らの席までやってきて、「サンアントニオの生活には慣れたかい?旦那のサポートをいつも有難う。おかげでチームが助かっているよ。」と妻への労いの言葉をかけてくれたものです。

僕がチームを去って1年ほど経ったある日には、自宅に1枚の新聞の切れ端を手紙と添えて送ってきてくれた事もあります。「この写真懐かしいだろ」と。チームが優勝した瞬間に選手が喜び合っていた中にたまたま僕が入っていた写真を見つけて送ってくれたのです。


“I thought you might enjoy this(喜んでくれるんじゃないかと思ってね)”というシンプルなメッセージの中に彼の思いやりと優しさが詰まっています。

これは僕が気に入ってもらったからではありません。ポップは同様の事をチームのメンバーひとりひとりに対してやっているのです。

そんな事をしてくれるコーチについていきたいと思わない人を探す方が難しいですよね。

生産(結果)

前回の記事の中では前例のない策を使ったりスカウティングをおこない、最終的にチームを68年ぶりのカンファレンス・チャンピオンに導いたポップ。

やはりサンアントニオでも同様に、

  • ハック・ア・シャック(Hack a Shaq)
  • 海外の選手の起用
  • 出場時間/休養日の調整

などに代表される、当時珍しいと言われた策をいくつも使って結果を残してきました。

ハック・ア・シャックはもともとポップがゴールデンステイト・ウォリアーズでアシスタントコーチを務めた際のヘッドコーチ、ドン・ネルソンが始めたもので、フリースローの下手な選手(シャック=シャキール・オニール)にわざとファールをして相手の良い流れを断つというもの。

いくらフリースローが下手とはいえ確率から言えば2本に1本は入れるはずで、ファールをするタイミングや試合の流れがわかっていなければ失敗しかねない、使うのが難しい作戦です。

それを有効的に使ってチームに勝利を引き寄せた最初のコーチがポップだという声も多く挙がっているみたいです。

(当時ライバルと言われていたフェニックス・サンズとの開幕戦の最初のプレーで行ったハック・ア・シャックの映像。前のシーズンのプレーオフでスパーズはこの策を使ってサンズを負かした背景があり、敢えてジョークとしてポップがチームに指示したとのこと。)

2000年前後、シーズン成績の良いスパーズがドラフトで得られる選択順位は低く、有望株の選手を選択することは難しくなっていました。

それでもガード陣の世代交代が必要となっていたスパーズは、1999年のドラフトでマヌ・ジノビリを57位(全体の最後から3番目)で、2001年のドラフトではトニー・パーカーを28位(1巡目の最後から2番目)で獲得。

当時のNBAでは、海外選手の起用については度々例があったものの、そのほとんどが運動能力を問われにくくサイズとスキルのあるビッグマンばかりでした。

そのため、ドラフト順位を観てもわかるように他チームの彼らに対する注目は低いものだったようです。しかし、2人はその後チームを4度の優勝に導く原動力となります(現時点で)。

出場時間と休養日の調整も最近では多くのチームがおこなうようになってきたようですが、4・5年前ではあまり取り入れられていない方法でした。

NBAで優勝するためには6ヶ月で82試合(およそ2日に1回試合)というレギュラーシーズンを戦い、プレーオフに望まなくてはなりません。

過密なスケジュールの中で選手の疲労回復のためにポップは毎試合主力選手の出場時間をできるだけ管理し、時に特定の選手を試合に出させなかったり遠征にすら帯同させないという策を取るようになりました(ある日にはティム・ダンカンを休ませる理由に”OLD(歳をとっているから)”と公式に発表し話題になった事も)。

主力選手が出ない事はお金を払って試合を観に来るお客には良い事ではない、とリーグから幾度か罰金を課せられた事もあったほどです。

しかし2014年にスパーズが優勝したシーズン、大黒柱のティム・ダンカンがシーズンを通して試合に出た時間の合計は、同シーズンMVPとなったケビン・デュラントのそれよりもおよそ20試合分少なくなっていました。

そのおかげもあってチームの怪我を最小限に抑えられ、良い成績が残せたのではないかと思っています

また、珍しい策ではないかもしれませんが、選手の個性に合わせてチームのシステムを変えられるというのもポップが結果を残してきた大きな理由だと考えれます。

2014年に多くの専門家から”ビューティフル・バスケットボール”と賞賛を浴びた華麗なパス回しによるスパーズのスタイルですが、必ずしもスパーズが同様のスタイルを常に目指しているわけではないのです。

2000年の前後にティム・ダンカンとデイビッド・ロビンソンという二人のビッグマン(”ツイン・タワー”)を軸としたバスケットボールから、デイビッドの引退後はティムの1on1とトニーやマヌ(3人を合わせて”ビッグ・3”と呼んだ)といったガード陣との連携による試合運びへ。

チームが4度目の優勝を果たした後の2007年以降はビッグ・3の年齢や怪我による衰えもあり、ピックアンド・ロールと3ポイントシュートを主体とした展開の早いバスケットボールに。

その後コービー・ブライアント、レブロン・ジェームズ、ケビン・デュラントといった1on1能力の高い選手を止めるためにとクワイ・レナード獲得の賭けに出た結果、5度目の優勝を果たし、スパーズの”Passing Basketball(パス主体のバスケットボール)は素晴らしい”という人々が増えた中、現在はクワイとラマーカス・アルドリッジという2人を中心としたバスケットボールのスタイルを展開しています。

このように、ポップが常にその時その時で状況を判断し、リーグで勝つためにベストなチームのスタイルを作り上げている事がよくわかります。

人材育成(再生産)

前回紹介した記事“Poppo’s Boys”で度々登場するカツィアフィカスコーチはポップがNBAへ行った後のチームを引き継ぎ、ポモナ・ピッツァーを10度のカンファレンスチャンピオンへと導き、現在もHCとして活躍しています。

NBAに入った後もポップは同様に優秀な人材を輩出してきました。

誰もがポップを”偉大な”コーチだと呼ぶのはそんな彼の人材育成への貢献があっての事なのではないかと思っています。

それがどのくらいのものなのか、下の表を見てください。



*正式にポップの元で指導を受けてはいないが、アドバイスをもらった事のあるコーチ達。↑出典:http://www.expressnews.com/

NBA全30チーム中19チーム、つまりおよそ3分の2にあたるチームで”ポポビッチ・チルドレン”達が活躍している事がわかります(しかもほとんどのチームのGMもしくはHCクラス)。そしてこれは僕が分かる範囲でのみなので、おそらく彼から指導を受けた事のある人材はもっといるのではないかと思われます。

ロサンゼルス・クリッパーズのドック・リバースHCは「このリーグにいるコーチは誰もがポップのようになりたいと思っているはずだ。選手達は皆”マイクのように”とマイケル・ジョーダンになりたがるが、同様にコーチ達は皆”ポップのように”とグレッグ・ポポビッチを目指しているんだ。」とESPNのインタビューで答え、また他には彼の事をNBAコーチ界の”ゴッド・ファーザー”と呼ぶ人もいるようです。


Popが今や宿敵であるGolden State Warriorsのスティーブ・カーHCと談笑を交わす。カーHCは選手時代ポップの元でプレーをし、今でも二人は親密な仲だ。出典:Warriors know Spurs’ Gregg Popovich has things up his sleeve

スパーズにいる頃にポップを見ていて何よりも驚いたのが、外部から来るコーチ陣を頻繁に受け入れる彼の寛容な姿勢に対してでした。

ポップは高校、大学、プロ、そして国内外を問わず様々なレベルの選手を指導するコーチ達の練習見学を受け入れ、練習が終わるといつもコートの片隅で真剣に議論を交わすのです。

普通NBAほどのレベルになると情報が漏れるのを恐れて見学者を制限するものではないのか。

世界最高峰のNBAの中でも一番と言われているコーチが他のコーチ達と真剣に議論する意味なんてあるのだろうか。

下手したら彼らがポップの策略を盗んでスパーズ、もしくはポップ自身のHCの座を脅かすような存在になるかもしれない。大丈夫だろうか。

などという僕なんかの勝手な心配をよそに、試合の前・後日には相手のコーチ達と食事に行ったり、試合直前・直後には談笑を交えながら会話したり、時には何やらアドバイスをしていることもあるようでした。

すごいなと思う反面、自分が同じような立場だったらそんな風に振る舞えるとは思えず、彼が何を考えてそのような行動をしていたのかがいつも自分の中では引っかかっていました。

でもその答えは彼の”信念”にあるのではないかと最近気づきだしました。

人となり

MUSTER専門家の河津先生の記事、「コーチ・カーターから学ぶ」にもあるコーチとしてあるべき姿勢、それが”真摯さ”です。

どんなに知識や能力のあるコーチでも”ブレない信念”が無くては集まった個性のあるアスリートを引っ張ることはできない。これはポップから学んだ事とも一致します。San Antonio Express-Newsでは次のような記事がありました。

デンバー・ナゲッツのHCであるマイク・マローンが以前サクラメントでHCを務めることになった際、ポップは彼に”Be true to yourself(自分を曲げてはいけない)”と伝えた。

NBAでは選手を罵倒するどころか指導することさえも許されない(選手の権力が強いため)と思う人が多くいる中、ポップが選手に対して怒っている例は多くある。

その中でポップはマローンに対し、”自分らしく振る舞い、怒る時は怒り、指導する時は指導するように。でも君が彼らをどれほど愛し、どれほどケアしているのかを伝えるんだ。

そうすればどんなにキツい指導も彼らは受け入れてくれる。”と伝えた。

マローンに限らず多くのコーチ達にアドバイスを与えるポップだが、自身はそれがどれだけ凄いことなのか考えもしないようだ。

ポップは最近ではボストンのスティーブンズHCから”盗んだ”と冗談を言いながら自分自身こそ皆に多くを学ばせてもらっているのだと言った。

先週のインタビューでは彼のキャリアの中で特に楽しかったシーズンはNBAがロックアウトの時で、他チームのコーチ達に会いに行き”何をしているか見させてもらった”事が”非常に実りのある時間で本当に楽しかった”とさえ言っていた。

では秘密であるべき知識をリーグの敵となる相手に伝えてしまっている事に関して彼はどう思っているのだろうか?

”それは大げさな話だ”とポップは言った。”私たちはバスケットボールをしているんだ。タイヤや電球を発明したのがいつだったかなんて覚えてやしないだろう。

与えられた時間内でどっちのチームがより長くやるべき事を遂行したかが勝者を決めるだけだ。そんなに特別な事ではない。皆ほぼほぼ同じ事をやっているだけなんだよ。”

ポップにとって自身がおこなっていることはごく普通の当たり前な事で、何も特別な事ではないのです。

やるべき事をやりきれるか、それがバスケットボールの勝敗に繋がるだけで、何のシークレットもない。皆のこだわっていることはちっぽけな事。

そんな事よりも意見を交換し、悩みを相談しあい、助け合いながらお互いを高める事が大切なんじゃないか。

そんな思いが詰まっている気がしました。

スパーズでの彼の行動を思い返して見ても、それは合致します。

勝つために明確な方針を提示し、それを遂行できなければ怒り、遂行できれば褒める。

自分が間違えれば謝り、良い事は良いと伝える。ロッカールームでの馬鹿話に参加して冗談を言い、表情がいつもと違うと思えば調子はどうだと声をかける。

世界中で起こる様々な話題を提供し、プロバスケットボールの世界にいる事が世の中にとってちっぽけな意味しか持たない事を教える。

それでも好きな事を仕事にできている事に感謝し、自分の仕事をまっとうする大切さを伝える。

相手がスター選手だろうとアシスタント・トレーナーだろうと、外部から見学に来たコーチだろうと彼の姿勢は変わりません。

バスケットボールよりもずっと大きな事を見据えて自分の仕事をまっとうする。そこには人に対しても仕事に対しても”CARE”するという信念があり、それこそが彼の尊敬される理由なのではないかと思うのです。


チームを鼓舞するポップ。チームの中に彼の話をいい加減に聞くものは一人もいない。↑出典:Shane Acedera, Author at URBYN LOFT

WHAT’S YOUR IMAGE OF LEADER?あなたにとってのリーダーの姿とは?

もう7年ほど前になりますが、ある日本のトップリーグのコーチと話をする機会がありました。

日本のバスケットボールをあまり知らなかった僕はふと、「日本のビッグマンがフックシュートを使う機会はどれほどあるのか」と尋ねると「フックシュートはね、日本人ができるシュートじゃないんだよ。アメリカでは遊びの中で自然と覚えられるものだけど、日本人には無理。」という答えを踏ん反り返りながら話してきたのを見て僕は大変驚きました。

僕はそれまでたくさんの選手がNBAに入り、フックシュートのみならずそれまでできなかったテクニックを日々の積み重ねで習得していく経緯を見てきていました。

それを「アメリカだから」と言う理由だけで片付けてしまうコーチがトップリーグで指導していると言う事実がショックでした。

その後彼の口から出てくる話は自身が過去に成功してきたキャリアについてや、NBAの名のあるコーチ達と知り合いである、といった当時スパーズに所属していた僕に対抗でもしているかのような話を次々とされました。

僕はただ日本のバスケットボールについて教わりたかっただけだったのですが......。

僕の思い描く指導者像とかけ離れたそのコーチの話を聞きながら、それが”あるべきコーチの姿”だと日本の選手や子供達に間違って伝わってはいないかと不安になりました。

これまでにRock & Hammerでも書いてきたように、トップを目指し、トップであり続けられる人ほど日々の積み重ねを大切にし、上達を目指して努力を続けます。

フックシュートという技術を身につける必要のある選手にはコーチがそれを指摘し、毎日の課題を与え、選手の成長を後押しします。自身の過去の栄光については語らず、今後を見据えて”今”何を改善すべきかを考え、行動します。

「偉い」、「凄い」と言われる立場にいる事に満足して踏ん反り返って何もしない人はいくら上のポジションにいようと絶対にそこに残り続けれるべきではないし、もし残り続けられる事が出来ているとしたら何かが間違っているはずです。

指導者の無責任な発言によって傷つけられた上、いい加減な指導のためにどうすれば良いのか途方に暮れているアスリートに出会う事があります。

特に日本では文化的に目上、年上の人間に対して逆らう事を良しとされずに育ってきている場合が多いからか、「おかしい」と思ったとしても何も発言ができない選手が多いと僕は感じています(年上を敬うことが悪いという意味ではありません。それ自体は世界でも称賛される素晴らしい文化です)。

どんなに経験のある指導者でも、わからないことや間違えはあるはずです。偉そうにしたり、何でも知っているかのように振舞うことが大切なのではありません。

選手の人となりを理解し、思いやり、成長させるために何ができるかを一緒に考え、成長してくれる指導者を選手達は求めているのです。

本当に大切なのはポップのように相手や仕事を”CARE”する気持ちなのではないでしょうか。