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今すぐ覚えたい、「歯のケガ」の対処法

歯のケガの対応、知っていますか?

こんにちは、テキサスA&M大学コーパスクリスティー校のキネシオロジー学部で臨床助教授として活動している阿部さゆりです。

スポーツでは、「命に関わる」とまではいきませんが、それでも充分に緊急の対応が必要なケガが起こりえます。

今回はその中でも歯に関するケガについてお話したいと思います。

意外と深刻な歯のケガ

虫歯治療などからもわかるように、歯は一度傷ついてしまうと、残念ながら自然治癒することはありません

歯は一生もの、なんてよくいいますが、年齢を重ねても美味しいものを何の心配もなくもぐもぐ食べるためにも、自分の歯とは末永く良いお付き合いをしたいものですよね。

スポーツで顔や口周りに起こるケガはスポーツ傷害全体の3〜38%と言われています。※1-3

例えば、皆さんは、口周辺にボールや他の選手の肘がぶつかるなどして衝撃がかかり、歯が刃物代わりになって自分の頬や唇、舌を切ってしまったことなどありませんか?

こういった口腔(こうくう: 口の中)のケガのマシなところは、特に何もしなくても「治りが比較的早い」ことなのですが、例え短期間とはいえ、物を食べたり飲んだり、喋るたびに痛い思いをするのはなかなかにしんどいものです。

それから、もっと重症だと歯が欠けたり(破折)、グラついたり(不完全脱臼)、抜けたり(完全脱臼・脱落)してしまう場合もあります。

これらのケガは放っておいても治らないばかりか、実は適切な対応をすぐにしないと手遅れになってしまうかもしれない、「緊急」と呼ばれるような一分一秒を争うケガなんです※4

これらのケガが起きた場合の対処法、皆さんはご存知ですか?

歯が抜けてしまった!


"Losing teeth" by fotologic. Licensed under a Creative Commons Attribution 2.0 Generic (CC-BY2.0). Accessed 28 March 2017.

では、歯がぼろっと抜けてしまった場合はどうするか?

まず一番にすべきは抜けてしまった歯を拾うことなのですが、この際、歯の根の部分をなるべく触らないように気を付けてください

根の部分には歯を歯茎に固定する靭帯や膜が付いていて、この部位の回復が再植の際のカギになります。※4

抜け落ちてしまった歯は、さながら陸に揚げられた魚のようなものです。

呼吸ができず、息も絶え絶え。このまま外気に触れ、乾燥すればどんどん細胞が死んでいってしまいます。ですから、彼らが呼吸できる環境に一刻も早く戻してあげることが大事なのです。

歯が抜けたときの適切な対応

歯が比較的キレイな状態ならば、そのまま「えいやっ」と、元の場所に歯を差し込んでみてください。向きだけ間違えないように、慎重に。

これ、乱暴に聞こえるかもしれませんが、実は一番有効な対処法なのです。

元の場所に差し込むことで、歯は息を吹きかえします。そして千切れた靭帯や膜たちが再生を始められるのです。「5分以内に再植できるか」がその後の治癒の成功を左右する最も大きな要素になる、と私たちアスレティックトレーナーも学校で習うんですよ。※4

多少ぐらついていても、とりあえずその場に落ち着けばオッケー。そのままガーゼを患部に軽く噛ませた状態で、歯医者さんへ向かいましょう。

歯に土やほこりなどが付着して、そのまま差し込むのがためらわれる場合は、水を使ってさっと洗い流しましょう。

この際、歯をごしごしこすり洗いしたり、石鹸や消毒液を使って洗ってしまっては絶対にダメです

これらは息も絶え絶えの歯に「トドメをさす」行為になってしまいますので、「すすぎ洗い」で十分。※4

日本では水洗いは30秒以内というようですが、アメリカではもっと厳しく10秒以内と指導されます。※4,5

水道水も歯にとっては外気とそう変わらない、「呼吸できない」厳しい環境なのには変わりないからです。

流し終えたら、先ほど同様、一刻も早く歯を差し込みなおして、歯医者さんへ直行してください。

歯を差し込みなおしてみても、あまりにグラグラして歯が全く安定せず、歯がぽろりと抜けてしまう場合は?

こうなったら、歯医者さんにワイヤなどの装具を使って固定してもらうよりほかありません。一刻も早く最寄りの歯医者さんへ向かいながら、その間、歯を「なるべく呼吸できる環境」へ置いておいてあげる必要があります

先ほども言いましたが、外気にさらすのはもちろん、水道水に浸すのも決して歯にとって好ましい環境ではありません。乾いたガーゼや紙ナプキンで包むのもダメ、とにかく乾燥は避けなければなりません。※4

うーん、ではどうすれば?

歯を保存する方法


By Endsurg (Phoenix-Lazerus, Inc.)CC BY-SA 3.0 or GFDL, via Wikimedia Commons

最も好ましいのは歯保存目的で作られた専用液体の中に歯を浸すことです※4

例えば、アメリカには「Save-A-Tooth」という製品が存在します。

スポーツの現場で働くアスレティックトレーナーならば救急キットに必ず用意しているおなじみの道具です。

手のひらにすっぽり収まるほどの小さな容器に保存液が入っており、抜けた歯もこの液体に入れておけば「呼吸」し続けることができるというわけ。

日本には「ティースキーパー『ネオ』」という同等の製品があり、学校などでは常備されている場合が多いほか、処方箋なしでも個人で一般的な薬局(もしくはオンライン)で購入することができますよ。

お値段はひとつ約1,600〜1,800円。

永久歯が一本守れると思えば、ずいぶん安い投資なのではないでしょうか。(ちなみにこの保存液は保存条件や期間が決まっているので、いざというときに使えないということがないよう、しっかり確認しておきましょう。)

専用の保存液が手元にない場合は、冷たい牛乳(できれば低脂肪のもの)が次に理想的です。※4

それもなければ、「患者の口(唾液)の中に入れてしまう」という荒技もあります。誤飲を防ぐために抜けた歯を歯茎と下唇の間に含み、そのまま歯医者へ向かいましょう。※4

しかし、歯が抜けた部位からの出血が激しい、患者が脳震盪も起きており、意識がもうろうとしている、または患者が泣きじゃくっていてうっかり歯を飲み込んでしまう恐れがある場合などは、口の中に入れないほうが良さそうです。

その場合、生理食塩水(コンタクト液など)に浸しておけば、専用保存液や牛乳ほどではありませんが、水道水よりは体内に近い浸透圧のある環境が保てます。

歯が欠けた!

かけらがあまりに小さく、痛みもない場合は「何もしない」という選択肢もありますが、もう少し深いところで折れた場合は痛みがあったり、冷たい・熱いものがしみたりすることもあります。

見た目が気になる方もいるでしょう。やっぱり、できることならくっつけたいですよね。

この場合も脱落と同様、欠けた歯を1)専用保存液、2)牛乳、3)口腔か生理食塩水に入れ (好ましい順)、すぐに歯医者へ向かいましょう。※4

歯が曲がった、グラグラする!

歯が少しだけグラグラする、くらいだったらそのままプレーを続け、終わり次第歯科医へ向かうのでも構わないのですが、例えばミシッと口の中で動いて別の方向を向いてしまっている場合は、まず方向を正したうえで、歯科医へ駆け込みましょう。※4

こちらもワイヤなどで固定し、靭帯と膜の再生を促すことで充分な回復が見込めます。

歯のケガの予防のために

さて、おさらいすると、歯が抜けた場合、1)歯を(必要があればさっとすすいで)元の場所に差し込み、すぐ歯医者へ

もしくは、2)差し込んでも安定しなければ専用保存液(なければ牛乳、それもなければ口腔か生理食塩水)に浸して、すぐに歯医者へ、というのが正しい対処法です。

とはいえ、歯の心配なんてしないにこしたことはないですよね。

歯のケガを予防するのに、はっきりと有効と言われている方法がひとつあります。それは、マウスガードを使うことです。※4

日本でボクシング、テコンドーなどの格闘技とアメリカンフットボールではマウスガードの使用が完全義務化、加えてラグビー、アイスホッケー、ラクロスなどでは一部義務化されているそうですが、やはり指定の無いスポーツのほうが圧倒的に多いのが現状です。※6

しかし、マウスガードをしていないほうが、している場合に比べて歯のケガのリスクが1.6〜1.9倍になるといわれていることを考えれば、義務化されていないスポーツでも率先して選手がマウスガードを使ったほうが賢明と言えるでしょう。※7

強制こそしていないものの、各協会もマウスガードの使用をスポーツ全般で推奨しています。※4,8

マウスガードって呼吸がしづらくなるのでは?と不安に思う方もいるかもしれませんが、専門家が貴方にぴったり適切に合うよう作ったマウスガードは呼吸の妨げにならないはずですよ。※9

マウスガード作成について興味のある方は、餅は餅屋!ぜひお近くの歯科医へ相談なさってみてください。

この記事で、一人でも多くの方が大切な歯を守るために何ができるか考えるきっかけになってくれれば幸いです。

参考文献

  1. US Department of Health and Human Services. Oral Health in America: A Report of the Surgeon General. Rockville, MD: National Institute of Dental and Craniofacial Research, National Institutes of Health; 2000.

  2. Kvittem B, Hardie NA, Roettger M, Conry J. Incidence of orofacial injuries in high school sports. J Public Health Dent. 1998;58(4):288–293.

  3. Kumamoto DP, Maeda Y. A literature review of sports-related orofacial trauma. Gen Dent. 2004;52(3):270–280.

  4. Gould TE, Piland SG, Caswell SV, Ranalli D, Mills S, Ferrara MS, Courson R. National athletic trainers' association position statement: preventing and managing sport-related dental and oral injuries. J Athl Train. 2016;51(10):821-839. doi: 10.4085/1062-6050-51.8.01.

  5. 埼玉北足立歯科医師会. 歯の脱臼についてwebsite. http://www.kitaadachi-dent.or.jp/QA/QA_A23.html. 2002. Accessed March 2017.

  6. 潮見台歯科クリニック. マウスガード装着義務のスポーツ website. http://www.shiomidai-shika.com/mouseguard/674.html. Accessed March 26, 2017.

  7. Knapik JJ, Marshall SW, Lee RB, et al. Mouthguards in sport activities: history, physical properties, and injury prevention effectiveness. Sports Med. 2007;37(2):117–144.

  8. The dental trauma guide. The International Association of Dental Traumatology website. http://www.dentaltraumaguide.org. Accessed March 26, 2017.

  9. Kececi AD, Cetin C, Eroglu E, Baydar ML. Do custom-made mouth guards have negative effects on aerobic performance capacity of athletes? Dent Traumatol. 2005;21(5):276–280.