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【指導者必見】「こうしろ!」よりも「こうだったよ」。脳の研究で判明した「フィードバック」の重要性

こんにちは、スポーツメンタルトレーニング指導士の河津です。

今回も、今年の11月の学会で発表されていた、最新のスポーツ心理学研究を紹介したいと思います。

指導者の声のかけ方と選手の脳活動の関係

このトピックも非常に興味深く、個人的に注目していたものでした、

研究タイトルは「“こうしろ”よりも“こうだった”の方が脳活動を高める~脳活動の教示情報とフィードバック(FB)情報の効果~」。こちらは、東京工業大学の小谷泰則先生の研究です。

どんな研究だったのでしょうか?詳しく説明します。

スポーツ選手が何かしらのスキルを練習している時、指導者が与える情報というのは、実際にスキルを実行する前の「教示情報」と、スキルを実行した後の「フィードバック情報(以下:FB情報)」があります。

  • 教示情報:「肘はたたんでスイングしなさい!」や「腰は落として構えるんだよ!!」などの、選手が実行する前に指導者が与えるコツや感覚の情報
  • FB情報:スキル実施後に、「今のスイングは~だったよ。」や、「腰の位置がまだ高かったよ。」などの実行の結果の情報

この研究は、簡単な実験課題を用いて、その課題前に与える「教示情報」と課題後に与える「FB情報」では、FB情報の方が有効であることを、脳活動を調査し証明しようという研究でした。

このことが明らかになれば、選手の練習時に、指導者が選手に情報を与える時、どのようなタイミングでどんな内容のことを選手に伝えればよいかがわかってくるようになりますね。

研究の方法

どのようにこの研究が進んでいったか?説明していきます。

この研究では、実際のスポーツの課題は用いておらず、実験室内で、研究のためにデザインされた「ボタン押し課題」を実施して実験を行っています。

目の前のスクリーンを見ながら指でボタンを押すだけの簡単なものです。おそらく座って実施されたものでしょう。

これは、研究のターゲットとなる情報(教示、FB情報)以外をできるだけ変わらないようにして、より結果を明確に提示するためです。

こういった基礎的な実験を行った後に、実際のスポーツ課題を用いたりして徐々に現場に応用できるようにしていくんですね~。

課題の詳細

課題の詳細はどのようなものだったのでしょうか?

①実験に参加した人は、最初に手元にあるボタンを自分の好きなタイミングで押します。

②ボタンを押してから3秒後に「教示刺激」となる記号がスクリーンに表示されます。表示される記号は「-」、「|」、「+」の3種類。

③その記号がスクリーンから消えた時点から、参加者は秒数を自分で数えて3秒、5秒、もしくは7秒たったと思ったらもう一度ボタンを押します。

何秒数えるかは、最初にスクリーンに表示された記号(教示刺激)によって変わります。

「-」記号が出ていたらなら3秒後、「|」なら5秒、「+」なら7秒です(この情報はもちろん事前に参加者には伝えられます)。

④参加者が表示された「教示刺激」をもとに秒数を数えてボタンを押したら、またその3秒後に「FB刺激」がスクリーンに表示されます。

ボタンを押したタイミングが指定された秒数より早かったら「-」の記号が、ぴったりだったら「|」の記号が、遅かったから「+」の記号が表示されます。

まとめると.......

  • 参加者が好きなタイミングでボタンを押す。
  • 「教示刺激」がスクリーンに出る。(仮にここでは「|」が出たとします。)
  • 「教示刺激」が消えてから、参加者は5秒を自分で数えて、5秒たったと思ったらその瞬間にもう一度ボタンを押す。(仮にここではボタンを押すまで6秒かかってしまったとしましょう。)
  • 今のボタン押しの結果がどうだったか「FB刺激」がスクリーンに出る。(ここでは指定された秒数よりも遅かったので「+」が出てきます。)

といった流れになりますね。この課題を実施している時に脳の活動を専用の装置で測り、「教示刺激」「FB刺激」が表示されたときに脳がどのように活動しているのか?を検討しています。

なぜこのような記号を使うのか

ここでちょっと余談になりますが、表示される記号について少し補足をしておきます。

「教示刺激」においても「FB刺激」においても、この実験では同じ3種類の記号(-、|、+)が用いられていますよね。でも同じ記号でも意味合いが「教示」と「FB」で変わってきます。

たとえば「-」の記号、これは
「教示」で出されたら「3秒後にボタンを押せ!」という意味なのですが
「FB」で出されたら「今のは指定された秒数よりも早くボタンを押してたよ!」という意味になります。

なぜこんな一見複雑なことをするのでしょうか?

「教示刺激」なら「3」とか「5」みたい直接秒数を表示すればいいし、「FB刺激」なら「早い」とか「遅い」とか結果をそのまま伝えたほうが参加者は楽ですよね?

つまり、ここが実験室実験のポイントなのです。

先ほども言ったように実験室実験は、研究のターゲットとなる情報以外をできるだけ変わらないようにすることが重要です。

ここではスクリーンに出てくる刺激の見た目すらも一緒にして、研究内容(教示かFBか)以外の情報を統一しようとする狙いがあるということです。

こうすることで、結果として脳の活動に差が認められたなら、純粋にその内容の違いで差が出たんだ!と結論づけることができます。

研究の結果

気になる研究結果はどうなったのでしょうか?

「教示刺激」と「FB刺激」では、どちらの方が顕著な脳活動がみられたか?

結果は、課題を行っている中で「FB刺激」を受けたとき、脳の「前部島皮質(ぜんぶとうひしつ)」に顕著な活動がみられました。ちなみに、「教示刺激」を受けたときには「前部島皮質」には活動は見られませんでした。

つまりは、脳の活動という観点から考えると、何かしらの技術指導などをするとき、選手が実際に動く前に「こうしろ!」と「教示情報」を与えるよりも、実施後に「こうだった!」と「FB情報」を与えたほうが、脳の活動を高めるということになります。

もう少しこの結果を掘り下げて考察していきましょう。

脳の「顕著性ネットワーク」

この研究で得られた結果は、脳の「顕著性ネットワーク」という働きから説明することができます。

顕著性とは、与えられた情報が自分にとって関係しているかどうか?その程度を表すものとされています。

顕著性が高い情報というのは自分への関係が高いのでより注意が向くし、動機づけ(やる気)も高まります。

顕著性の高い情報が来たと脳が判断した時、それによって感情を発生させたり、関連する他の脳領域を活動させたりする働きを持つのが「顕著性ネットワーク」です。

この顕著性ネットワークにおいて重要な働きをするといわれているのが、この研究でも活動のみられた「島皮質」という領域です。

「FB刺激」を与えられた時に活動がみられた「前部島皮質」という領域は、「島皮質」の中でも、人間の感情・注意と深くかかわっているといわれており、特に前部島皮質の右側の半分、「右前部島皮質」が重要な役割を担っているといわれています。

ちなみに左側の半分「左前部島皮質」は反応の調整、つまりは運動を実行した結果の情報を取り込んで次の運動の時に活かすような役割を担っているといわれています。

まとめると、ある情報が与えられた時、それを「島皮質」がキャッチし、顕著性の程度を評価します。

与えられた情報の顕著性が高いと評価された場合、感情の変化、動機づけの高揚、運動に関する情報の調整がおこなわれるわけですね。

顕著性が低い場合はそういった反応がみられないということです。

この研究で、脳活動の違いとして表れた反応にはこういった意味があったんですね。

研究結果を現場で活かそう!!

それでは、この研究の結果を現場でより活かすために、どのようなことが考えられるでしょうか?

「教示刺激」と「FB刺激」で顕著性の評価に差が出たのはなぜか?

これまでの結果から、「選手の練習を見る時は、FB情報を与えたほうが選手の脳は活動する!!」ということはわかっています。

しかし、なぜ「FB情報」の方が脳が活動する、つまりは脳の「島皮質」が「お?この情報は自分にとって重要だぞ!!」と判断するのでしょうか?

そこを掘り下げておくと、より現場で使える知識になってくるでしょう。

ここからは、私見も入りますので、参考程度にされてください。

ずばり、「FB情報」というのは“事前に自分が運動を体験している。”というところに顕著性を高める要因があるのだと思います。

ついさっき自分が行った運動に対しての情報なので、関連性は高くて当然ですね。

それと比べて「教示情報」はまだやっていないことに対して、「こうしなさい!」と与えられるものなので、実際の自分の感覚と関連づけることが、「FB刺激」よりは難しくなるのだと思います。

教示刺激はいらないのか?

それでは、「教示刺激」はいらないのか?というと、私は必ずしもそうではないと思います。

前々回の記事でもお伝えしたように、運動学習が進むと、運動を実施している時の自分の筋感覚イメージ(競技している自分自身の筋肉の感覚のイメージ)が描けるようになっていきます

そうなってくると、その筋感覚イメージをより効果的、効率的に修正していく段階を踏むことになりますね。この時、指導者の「教示情報」というのは実施前に選手が筋感覚イメージを修正するための手がかりになることがあります。

中級者以上の選手にとって、その日の練習の最初の実行前には特に必要となるのではないでしょうか?さらにそこに「FB情報」を加えるとより効果的な練習になっていきますね。

運動を実際に学習、調整していくうえでは「FB情報」は重要です。特に、筋感覚イメージのわかない初心者に対しては、「教示刺激」よりも重要と言い切ってもいいかもしれません。

しかし、学習が進むにつれて「教示情報」の重要性も大きくなっていくことが考えられるでしょう。

これまでの情報をまとめて、指導の仕方を以下に提案します。

スポーツ技術指導のポイント

  • 学習の初期段階では、選手にはとにかく実行してもらって、その都度「FB情報」を与える。(徐々に運動の筋感覚イメージを構築してもらうということは意識しておこう!)
  • 徐々に筋感覚イメージが描けるようになってきたら。教示情報も織り交ぜて、選手の描くイメージをブラッシュアップさせていく。
  • 最終的には、選手自身からどうしたらいいかを引き出しながら、それを「教示情報」としていく。(この時「FB情報」は、選手の気になっている部分の結果を知らせる程度に。)

この手順を意識して指導の声掛けをしていくと効果的なのではないでしょうか?

最後の提案は私個人の意見になります。選手の特性や、競技の特性などによって実際指導される方々で応用してお使いください。

参考文献

“こうしろ”よりも“こうだった”の方が脳活動を高める~脳活動の教示情報とフィードバック(FB)情報の効果~,第43回 日本スポーツ心理学会ポスター発表,2016年,小谷泰則 大上淑美.