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スポーツ界の根深い問題、「体罰」という名の「暴力」を絶やすために

こんにちは、スポーツメンタル上級指導士の石井です。

2016年ももうすぐ終わりですね。

2016年のスポーツの話題といえば、なんといってもリオオリンピックでの日本選手団の活躍。

日本のメダル数は史上最多を更新。男子4×100mリレーや男子卓球、女子バドミントン、カヌー、女子ウェイトリフティングなどの競技で、「日本初」もしくは「アジア初」のメダルを獲得し、日本のスポーツ界の全体の進化を感じます。

目覚ましい進化を遂げる日本スポーツ界ですが、ひとつだけ昔から問題として根強く残っているものがあります。

もうお気づきだと思いますが、スポーツの現場での「体罰」の問題です。

「体罰」はただ「暴力」である

平成25年2月5日の文部科学大臣メッセージ「スポーツ指導における暴力根絶に向けて」にはこうあります。

「スポーツ指導者に対し暴力根絶の指導を徹底するとともに、スポーツ指導者が暴力によるのではなく、コーチング技術やスポーツ医・科学に立脚して後進をしっかり指導できる能力を体得していくために、スポーツ指導者の養成・研修の在り方を改善することが大切だと考えます。」

こちらの文中には「体罰」という言葉は用いられえておらず、「暴力」というストレートな言葉が使われています。

このことからもわかるように、「罰」という「こらしめ」や「しおき」というニュアンスの言葉ですが、スポーツ指導の場面においてはただの「暴力」なのです。


2009年8月の大分県立竹田高校の剣道部のキャプテンが熱中症と体罰で亡くなった事件や、2012年12月には桜宮高校の男子バスケット部のキャプテンが部活動での体罰を背景に自殺した事件などの痛ましい前例があるように、スポーツの現場での「体罰」は凄惨な事件を引き起こしかねません。


2020年の東京オリンピックというひとつの大きな目標に向けて、そしてその後の日本スポーツ界の発展のために、指導者の指導能力の向上や現場での事故を少しでも減らす、体罰の不要性と体罰のない指導方法を記したいと思います。

つたなく非常に長い文章になりますが、読者の方はぜひご意見・ご感想をくださいませ。

なぜ体罰がうまれるのか?

結論から申しますと、体罰は指導者の指導方法の未熟さを補うためにおこなわれるものです。

体罰をスポーツ指導の手段としている指導者には、「言われたことができなかった」「ミスをした」などの技術や競技レベルの向上を理由にする場合と、「たるんでいる」などの精神的な理由をあげる場合があります。

一見、大義名分のように見えますが、選手がこのようになってしまう原因には、指導者から選手への動機づけが弱い場合や、そもそも選手の体調が悪い場合、怪我をしている場合も考えられます。(竹田高校の事件がまさにこの状況です。)

体罰という恐怖を振りかざせば、これらの原因を無視していても選手を動かすことができるため、指導をしている気分になります。

すると、指導方法の研究がおろそかになり、いつまでも自分が経験した範囲のみでの知識で指導がおこなわれるという悪循環に陥ります。

すべては未熟な指導が原因

選手が指導したとおりの技術を身につけることができないのは、「根性がない」や「がまんが足りない」などの選手の方に問題があるのではありません。

選手の実態把握が適切にできず、ひとりひとりのニーズにあった指導法がおこなわれないことや、経験した範囲から出ない自己流の指導法、指導者とのコミュニケーションの問題から技術の獲得を困難にしていることが大きな原因なのです。

前述の文部科学大臣のメッセージでも「スポーツ指導者の養成・研修の在り方を改善することが大切だと考えます」とあるように、体罰をなくすためには指導者が指導力不足を自覚することと、スポーツ界全体の指導能力の向上が必要です。

体罰をなくすスポーツ医・科学を根拠とした指導

体罰を根絶しても、スポーツ医・科学の根拠に基づいた指導なら、しっかりと選手をレベルアップさせることが可能です。

体罰の理由として多いあげられるものでも、指導方法を学ぶことで適切な対処をすることができます。

言われたことができない

典型的な例ですが、選手が言われたことができないのは、指導者が選手にあった指導方法ができないからです。

「言われたことができない」と暴力を使う指導者は、指導力不足の責任を選手に転嫁させています。何をすればいいのか正しく伝えなければ、できるはずがありません。

そもそも暴力を使うことで、技術や技能が上達するのであれば、心理学や運動方法学などこれまでの研究の積み重ねは意味をなさなくなります。

もし、「選手が言われたことができない」と思っている指導者の方がいましたら、自身のコミュニケーションスキルを向上し、練習や指導の意図を正しく伝えて、選手の無駄な緊張や不安をなくすことをはじめてください。

ミスをした

スポーツでは、ミスをするのは当たり前であり、ミスをしない完璧な選手はいません。ミスを最小限にするために心理面、技術面、体力面をトレーニングするのです。

競技に寄り添ったアドバイスをするなら、競技中のミスは回避できるものではないので、ミスからのできるだけ早く気持ちを切り替えることが重要です。

ミスをしたことを指摘するよりも、気持ちを切り替える方法を指導した方が試合で役立つと思いませんか?

メンタルトレーニングには、気持ちの切り替えをトレーニングする方法としてフォーカルポイントや呼吸、態度等を習得させる技法もあります。また、試合中のミスは、戦略の失敗も考えられるので、指導者の知識の向上も必要と考えられます。

当サイトでは私や、他の専門家のメンタルの専門家の方が試合の場面で役立つ技法を紹介しています。しっかりと根拠に基づいたものですので、ぜひ参考にしてみてください。

▼試合の場面で役立つ記事・石井執筆

▼スポーツメンタルトレーニング指導士・河津氏執筆

たるんでいる

「たるんでいる」と感じる状況は、選手の行動にやる気が見えないことだと思います。

これは選手の視点からすれば「やる気がでない」、「やる気の高め方がわからない」というものでしょう。指導者はしっかりと動機づけをし、やる気を生み出す方法を指導する必要があります。

選手のやる気を生み出すには、目標設定が効果的です。

もちろん、ただ目標を決めるのではなく、「実現可能なもの」で「達成までのプロセス」が明らかになっているものを選手と共に設定することが大切です。

忍耐力・根性・がまん強さがない

叩かれることで忍耐力は身に付くでしょうか?だとすれば、ボクシングなどの身体的なコンタクトがある競技では、忍耐力は強いはずです。

しかし、実際はそのような競技でも試合を途中で諦めてしまったり、些細なミスから逆転をされてしまったりすることがあります。

暴力は、恐怖心や不信感を与えるだけです。

体罰や叱ることには、副作用があります。褒めることの効用に目を向けることができる能力と、褒める指導を身につけてください。

▼あわせて読みたい記事

厳しい・キツいだけの練習(ひたすらのランニング・千本ノックなど)

「少し体罰からはズレているのでは?」と思われるかもしれませんが、スポーツ医・科学に基づいた指導法を伝えるという観点から紹介致します。

厳しい練習をすることで、選手に忍耐力がついたり、体力が向上したりするのでしょうか?

練習は厳しいものですが、嫌々取り組んでもその効果は低いでしょう。厳しい練習を楽しくする方が、頑張って取り組めると思います。

また、厳しい練習をする意味が理解でき、自分のどの部分を強化しているのかが理解できれば、後述する「内発的動機づけ」が高まり、より効果的な練習になります。

選手に厳しくキツい練習を課した場合の最悪のシナリオは、選手が手を抜く方法を身につけてしまうことです。

厳しくキツいだけの練習を長期間取り組まされると、体力的な限界を回避するために、無意識に手を抜く方法を身に付けてしまう場合があります。

この手を抜く習慣が身に付くと、試合でも全力が出せなくなってしまいます。長時間練習を行っているチームに見られ、解決するには練習内容を工夫できる知識が必要となります。

では「いい指導」とは何か?

ここまで体罰(暴力)による指導の不要性を書いてきましたが、ここまで読まれた指導者の方が気になるのは、「じゃあどんな指導をすればいいんだ」という点でしょう。

体罰のないスポーツ界を実現するために詳細なアドバイスをしたいところですが、やはり競技やチームの状態などにより必要な指導は異なるので、一概に「この指導をすればいい」とは言えません。

これはチームの指導者自身が指導法を広く学び、チームに必要と思われることをひとつずつ試していくことや、直接専門家からのアドバイスを聞き入れることで明確になります。

ですが、どの競技の指導者も意識すべきポイントがひとつあります。それが選手の「内発的動機づけ」を高くすることです。

楽しい練習で「内発的動機づけ」を高くする

内発的動機づけとは、目標を達成すること自体が喜び、楽しみになる。

つまり、自分のしているスポーツが好き・楽しい・面白いと思うことや、練習をして自分が上手になるのが楽しい・面白いと思うことで、動機づけ(やる気)が高められることです。

これに対し、「外発的動機づけ」というものがあります。

こちらは優勝旗やお金を得られるといった具体的なものや、賞賛される、有名になるというような抽象的なもの、または、暴力や恐怖心などやグランド50周走るというような罰を外から与えられることにより動機づけ(やる気)が高められることです。

動機づけ、つまりやる気を高めるという点では、ふたつに差はないように感じるかもしれませんが、外発的動機づけには、「一度与えた報酬や罰に慣れてしまい、効果を継続させるためには、より大きな報酬や罰を与え続けなければいけない」という問題点があります。

試合に負けて課せられたグラウンド50周が、最初は嫌だったのに途中から「50周ですむならいいか」と思いはじめ、無理やり頑張らせるには、より大きな罰を与えなければいけなくなるのです。


内発的動機づけは自分自身が感じた楽しさや、面白さをエネルギーにしているので、やる気が簡単に尽きることなく長続きします

楽しい練習とは、楽をすることやサボることではなく、「目標を達成することや技術の上達が楽しい」という内発的動機づけを高める練習のことです。

指導者の方は、選手の内発的動機づけを高めるために、情報収集や勉強、創意工夫を惜しまないでください。

時代と環境、そして人が違うことを知る

体罰をする指導に対する調査では、体育・スポーツ科学系の大学生では肯定派が多いという報告が多く見られます。

この大学生たちは、スポーツに関してはいわゆるエリートです。体罰を含め、厳しい練習環境に打ち勝ってきた方々です。

しかし、このような人たちとは反対に、このような練習環境では、才能があってもやる気をなくしたり、怖くなって逃げ出したり、スポーツそのものが嫌いになった人たちもいます。

また、厳しすぎる練習でケガをしてスポーツを続けられなくなった人たちもいます。

スポーツの指導者の多くは、これまで自分が指導を受けてきたスタイルで指導をおこないがちです。

現場での指導風景を見ても、自分の現役時代と比較して「なぜ、こんなことができないんだ」と指導をおこなっている場面を見かけます。

体罰を根絶するためには、経験による指導から、スポーツ医・科学を根拠に持つもの指導に変えていかなければなりません。

選手たちは、自分の指導者をモデルにして将来、指導者へと育っていきます。将来のより良い指導者を育成するために、現在指導者であるみなさんが良いモデルを作っていきましょう。



本記事では、メンタルトレーニングの手法やスポーツ心理学を活用することで、体罰を根絶する方法を紹介してきました。

スポーツに関する研修会や講習会も数多く開催されていますので、それに参加するなどして指導について研鑽して欲しいと思います。

ひとりの指導者が与える大きな影響に気づく

体罰は単純な問題ではありません。日本の歴史や体育・スポーツの成り立ちも複雑に関わりあっている問題です。

しかし、だからといって解決を諦めていい問題ではありません。

スポーツの魅力のひとつでもある、人を成長させる達成感や、集団での関わり方などを若い世代の選手が正しく受け継いでいけるよう、まずは指導者から努力を始めましょう。

体罰は暴力であり、「社会の基本的なルール」を違反しています。

ここまでの内容を読んで「自分には、関係がない」など否定的な考えを持つ指導者ほど、「社会の基本的なルール」に反した指導をしている可能性が高いことに気づいて欲しいと思います。

指導者は大きな責任を負う立場ですが、それだけの影響力や達成感があります。あなたの指導がひとりの人間の成長、もしくは人生に全体に与える影響の大きさに気づいてください。


※今回の記事は長崎県教育委員会「運動部活動指導者の手引き」に寄稿した原稿を加筆修正致しました。

引用・参考文献

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阿江美恵子(1995)学校期の競技スポーツ指導における体罰‐面接法からの調査‐.東京女子体育大学紀要,第30号:85-91.

阿江美恵子(2013)暴力的な指導に耐えてきた学生たちにきいてみたら.体育科教育.大修館書店:30-33.

石井聡 (2012) メンタルトレーニング,輝け感動 勝利へダッシュ.財団法人長崎県体育協会スポーツ医科学委員会:1‐28.

石井聡(2010) 競技力向上のためのメンタル面診断 「競技力向上のメンタル面診断 心理的競技能力診断検査の結果による強化対応策について.スポーツ科学NAGASAKI,16: 24-30.

石井聡・高妻容一(2006)講習会形式メンタルトレーニングプログラムの効果について(その2).東海大学スポーツ医科学雑誌,18:69-78.

石井源信・石川国広・高見和至・後藤馨(1996)ジュニア期の優秀指導者の実態調査に関する調査研究.ジュニア期のメンタルマネジメントに関する研究 第2報,日本オリンピック委員会スポーツ医・科学研究報告:5-50.

財団法人日本体育協会(2009)さよなら体罰.指導者のためのスポーツジャーナル,冬号:9-24.

梅津 迪子(2003)成育過程の経験によって醸成される体罰観・暴力観の研究 .聖学院大学論叢 15(2): 31-44.

高橋豪仁 , 久米田恵(2008)学校運動部活動における体罰に関する調査研究,教育実践総合センター研究紀要 (17):161-170.

永井洋一(2013)暴力的な指導は競技力を高めない.体育科教育.大修館書店:42-45.

長崎県教育委員会(2014)学校運動部活動指導者の手引き

中島宣行(2007)心理学サポートについて(ジュニアスポーツにおける心のケア).ジュニアスポーツのための医・科学ハンドブック,財団法人日本
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広島県バレーボール指導教本、財団法人広島県バレーボール協会,一般財団法人広島県バレーボール協会Homepage<http://www.hva.or.jp/sidoukyouhon.pdf>(参照日2013年2月15日)

Robert S.Weinberg & Daniel Gould(2007) Foundations of sport and exercises psychology 4th ed.Human Kinetics.