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【専門家が解説】スポーツ初心者と上級者の「脳波」の違い

こんにちは、スポーツメンタルトレーニング指導士の河津です。

先日北海道にて、第43回日本スポーツ心理学会に参加してきました。学会では、わが国で行われている最新の研究の成果が発表されており、とても有意義な時間を過ごさせていただきました。

今回は、私が実際に参加していろいろと聞いたお話の中から、スポーツ選手や監督・コーチの皆様のためになるスポーツのメンタルに関する最新の情報をお届けしたいと思います。

運動学習とイメージ、脳の関係性の研究

今回の学会発表の中で最も気になっていたテーマのひとつです。

発表タイトルは「初心者のスキル習熟に伴う運動イメージの変化:脳波を用いた単一事例実験」です。こちらは大阪体育大学大学院の實宝希祥先生の研究になります。

どんな研究かを説明します。

何らかのスポーツをしていて、そのスポーツ特有のスキル(例えば、サッカーのインサイドキック、野球のスイング、バレーのレシーブ、体操のバク宙など)を練習している時、ほとんどの人はプレーの直前、直後に一度イメージの中でそのスキルをやってみるということをすることがあると思います。

これを「運動イメージ」と呼びます。

この研究は、バトントワリング初心者の、競技を始めて1年目から2〜3年目にかけての個人演技の運動イメージが、どのように変化していったかを選手に対するアンケートや、脳波測定を用いて調査したものです。
※バトントワリング…両端にゴム製の重りを付けた金属の棒を回したり空中に投げたりながら新体操のような演技をする競技、パフォーマンス

つまり、「技術がうまくなっていく過程で、選手のイメージがどのように変わっていくのか」を明らかにしよう!という研究ですね。

これが明らかになると、選手の技術練習の時に、どのようなイメージを描かせれば効果的に技術の習得が進むのかわかるようになります。

研究の方法

どんな方法でこの研究が進んでいったかも説明しておきましょう。

この研究では、競技の初心者の選手に「バトントワリングの個人演技の内容」をイメージしてもらい、その時の脳波を測定し、さらにイメージ後にその内容に関するアンケート調査を行いました。つまり、イメージしている状態を、選手の主観である心理的な調査と脳波を用いた生理的な客観データを用いて明らかにしようということです。

このような測定・調査を、選手が競技を始めてから3年間の間に、4か月ごとに計9回行いました。測定の1~4回目までは競技を始めて1年目、5~9回目は競技を初めてから2~3年目になります。

ちなみに選手にイメージをしてもらう時は、「できるだけ鮮明に、演技している自分の筋肉の感覚を中心にイメージする」ことを強調してイメージをしてもらいました。

このように、競技している自分自身の筋肉の感覚のイメージを「筋感覚的イメージ」というのですが、なぜこのような指示をしたかというと、これまでの研究から、競技力の高い選手は「筋感覚的イメージ」を実行しているという結果が出ていたからです。

研究の結果

結果はどうなったのでしょうか?

次にこの研究の結果の説明をしていきましょう。

競技を始めてから1年目(測定1~4回目)

イメージすること自体が非常に難しいと選手自身が感じているという報告がありました。また、演技している自分を客観視している「客観イメージ」が多く出てくるという報告がありました。

「筋感覚的イメージ」をしてくださいという指示を出していたにもかかわらずです。

さらにその時の脳波はどのようなものだったかというと、集中の維持や切り替えなどと関連のある部位(背外側前頭前野)に活発な活動がみられていました。これはどういうことかというと、選手は「ものすごく頑張って集中しないとイメージをすることができなかった」ということを表しています。

競技を始めてから2~3年目(測定5~9回目)

5回目の測定で注目すべき変化が起こっていました。

選手の報告から、イメージの視点が「客観イメージ」から「筋感覚的イメージ」に切り替わっていたのです。さらに、報告の内容も1年目のころと比べるとより詳細になっていました。これは、選手がより明確に、具体的にイメージをすることができているということを表しています。

それに加えて、選手の競技成績も向上していることが確認されており、競技能力とイメージの描き方には関係があることが確認されたといっていいでしょう。

そして脳波はというと、1年目の頃に活発な活動を見せていた部位(背外側前頭前野)において、リラックスを表すα波が多くなり、緊張を表すβ波が少なくなっていました。

これはつまり、1年目のころと比べると、「そんなに頑張らなくてもイメージがわくようになった」ということを表しています。

さらに、視覚をつかさどる部位(視覚野)も1年目と比べるとリラックスを表すα波が多くなっていました。活動が少し抑えられたということですね。

視覚野は目をつぶっていても視覚的なイメージを描くと活動することがわかっています。

つまりこの結果から、選手が自分の目で見ている「客観イメージ」から「筋感覚的イメージ」に切り替えることができたことが脳の活動でも明らかになったということになります。

研究結果を現場で活かすために

いかがでしたでしょうか?

こういった研究によって、選手がうまくなっていく過程でのイメージの変化や技術練習中の脳活動の変化がどんどん明らかになってきています。

あとはこの研究結果を現場の方たちがどのように生かしていけばよいか?ということになりますね。そこは私たちの仕事でもあると思っています。

そこで最後に、この研究の結果を現場で生かすとどのような指導法、留意点が浮かび上がってくるのか?それについてお話します。

初心者に対する声掛け・フィードバック方法に活かす

初心者に対して何かしらのスキルを教える時に、自分の筋感覚的な指示をしてしまうことがあります。

例えば、「肘に力を入れるんだ!」とか「膝の力は抜きなさい!」とか、フォームや体の使い方の細かいことを丁寧に教えるようなことですね。

研究の結果を踏まえるとこれはあまりよくないことのように思います。なぜなら、言ってもイメージがわかないから

筋感覚的イメージは、競技力向上とともに鮮明になります。なので、練習初期は客観イメージを持たせる程度にしておいた方が良いのではないでしょうか?

ズバリ「見本をみせる」ということ。

あれこれ言わずにまずは手本を見せて、まねさせてみるということですね。

そのかわり、実際にさせてみた後のフィードバックは自分の筋感覚を詳細に思い起こさせるようにすること。これが大事になってきます。できればポイントごと紙に書かせてみるようなこともイメージを固めるのには有効な手段ですね。

「競技力向上とともに筋感覚的イメージは鮮明になる」ということは、筋感覚的イメージを鮮明に描けるようになれば競技力は向上すると考えてもよいと思います。

小俣先生の執筆されていた記事においてブルース・リーの名言「Don’t think! Feeeeel!」が紹介されていましたが、そこに通じるものでもあります。

指導者自身の感覚を「教え」すぎてしまうと、選手自身の筋感覚的イメージの構築の邪魔になる可能性があるということですね。

▼小俣氏の記事

イメージトレーニング法に活かす

この研究は選手のイメージ関する研究なので、やはりメンタルトレーニング技法の中心と言ってもよいイメージトレーニングに活かさない手はないでしょう。

研究結果を考えると、競技の初心者に関しては、イメージトレーニングの際、できるだけ集中できる静かな環境で行えると良いと思います。

競技初心者は熟練者とくらべ、イメージを描くのにより集中力を要すると考えられますので、集中の難しい場所ではより困難になり、効果も減少してしまうのではないでしょうか?

「客観イメージ」から「筋感覚的イメージ」への切り替えのタイミングに関してもこの研究から示唆を得ることができます。

はじめから無理に筋感覚的イメージを持たせようとしてもうまくいかない、それどころかストレスがかかりすぎるようであれば選手のやる気にも悪影響になることもあるでしょう。

この研究では、選手の報告と脳波という生理的な指標が一致しています。つまり、選手の感覚はある程度は生理的にも正しいと判断して良いということです。

選手自身の感覚や、実際の競技レベルの向上を考慮して、イメージトレーニングの際の課題の切り替えを行うことができればよりスムーズにイメージトレーニングの質の向上につながるのではないでしょうか?

最後に

今回紹介した研究は、あくまでひとりの競技者の事例を話したものにすぎません。こういった実験や研究で問題とされるのは「一般的にスポーツ選手全体に当てはめて考えていいのか?」ということです。

もちろん研究者の方はそれを踏まえた上で発表していますし、これまでの研究と比較してある程度の正しさを証明しています。

この記事を読まれている皆様もその点は考慮したうえで指導活動にお役立てください。

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参考文献

初心者のスキル習熟に伴う運動イメージの変化:脳波を用いた単一事例実験,第43回 日本スポーツ心理学会ポスター発表,2016年,實宝希祥 山本真史 荒木雅信.