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スポーツ指導の常識「ゴールデンエイジ理論」を疑え


↑子どものスポーツ指導の常識となっている「ゴールデンエイジ理論」

こんにちは、ジュニアユースを対象にした育成やフィジカルトレーニング、運動学習などをテーマにした講演活動や、強化育成システムの研究活動をしている「小俣よしのぶ」と申します。

読者の皆様は「ゴールデンエイジ」「ゴールデンエイジ理論」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

これは子どものスポーツ指導をするときの原理となっている理論で、「日本サッカー協会」をはじめとするさまざまな競技団体、民間スポーツスクールなどが、この理論をもとに育成システムや指導プログラムなどを構成しているとうたっています。

また、最近ではスポーツだけではなく子どもに関わるさまざまな教育関連サービスにまで取り入れられており、現在は一般の保護者にも浸透し、お子さんの早期専門教育ブームの発端にもなっているようです。

今や子どものスポーツ指導において常識となっているゴールデンエイジ理論ですが、そもそも正しく理解できているでしょうか?

間違って伝わり、それが元で思わぬ問題を引き起こしていませんか?

あるスポーツスクールへの入会を希望されている保護者からスクールに相談がありました。

「うちの子はもう11歳なんです。ゴールデンエイジは12歳までと聞いているんですが、この年齢からはじめてはもう遅いですよね……。」
「まだ年少なんですが、ゴールデンエイジによると脳や神経の伸び盛りに少しでも早くスポーツを始めると良いと聞いたんですが……。」

これらの事例に登場した考え方は、全て間違っているとは言い難いですが、流行の陰でゴールデンエイジ理論が正しく伝わらずに独り歩きしていることを物語っています。

今回はスポーツ界の常識になっている「ゴールデンエイジ理論」の持つ疑わしい点について、専門家である私から正しい情報をお伝えします。

ゴールデンエイジとは?


↑ゴールデンエイジ理論とは?

そもそもゴールデンエイジとは何なのでしょうか?そもそも日本でゴールデンエイジ理論が生まれたのは1990年代です。

サッカーJリーグの誕生をきっかけに日本サッカーの強化方針が決められ、その内容をまとめた「強化指導指針 1996年版」の中で紹介された理論が「ゴールデンエイジ理論」です。(※ちなみに「ゴールデンエイジ」という言葉は今では世界共通に使われていますが、その語源は分かりません。おそらく、オランダのプロサッカークラブの「Ajax(アヤックス)」が使用したことがきっかけではないでしょうか?)

ゴールデンエイジの定義

ゴールデンエイジの定義ですが、日本サッカー協会発行の『JFAキッズ(U-8/U-10)ハンドブック』には以下のように書かれています。


↑出典:日本サッカー協会

「U-10~U-12年代は心身の発達が調和し、動作習得に最も有利な時期とされています。集中力が高まり運動学習能力が向上し、大人でも難しい難易度の高い動作も即座に覚えることができます。「ゴールデンエイジ」と呼ばれ、世界中どこでも非常に重要視され、サッカーに必要なあらゆるスキル(状況に応じて技術を発揮すること)の獲得に最適な時期として位置づけられています。本格的なサッカートレーニングの始まりの時期です。サッカーで求められるスキルを習得させ、それをゲームの中で発揮できるようにトレーニングしていきましょう。」

簡単に言うと9歳ぐらいから12歳ぐらいまでの間が「運動学習最適期」であると言い、この時期を逃さずにサッカーの実践的スキルを習得しましょうということです。

ゴールデンエイジ理論による運動学習最適期とは?

スキル習得に重要と考えられている「運動学習最適期」。

この考え方の背景には次の3つの科学理論があります。まずは「スキャモンの成長曲線」、次が「即座の習得」、そして「脳の可塑性(かそせい)」です。

今回の「ゴールデンエイジ理論を疑え」というテーマですが、実はゴールデンエイジ理論を支えている3つの理論にそれぞれ「正しい」と言えない問題点があるために生まれたものです。

ゴールデンエイジを支える理論が正しいと言えないものであれば、ゴールデンエイジ理論の解釈も正しいとは言えなくなりますよね?それぞれの問題点を紹介していきましょう。

「スキャモンの成長曲線」の問題点

まず最大の問題は「スキャモンの成長曲線」にあります。「スキャモンの成長曲線」によると子どもの頃(0歳から12歳ぐらいまで)に神経系器官の発育が著しいと言っており、それ故にゴールデンエイジ理論では運動学習を行う上で最適時期であると言っています。


↑スキャモンの成長曲線

簡単に言うと神経の量が大幅に増える時期なので、運動を司る神経系の量が増える時期が運動習得には最も適しているということです。

一見したところ理にかなっているように見えるこの理論。しかし、実は大きな問題があります。

それは神経の「量」と「質」は異なるということです。

スキャモンの成長曲線は「量」のみしか考慮していない

例えば神経の量が増え一定量に達すれば機能が向上すると考えた場合、全ての子どもが一定の運動機能を備えることになりますよね?

しかし、実際はそのようなことはありません。運動の得意な子、苦手な子、ちょっと教わっただけですぐにできる子、時間をかけて反復練習をしないとできない子など、さまざまです。

神経系は人間の器官で生体機能です。人間は機械ではありませんから全てのパーツが揃えば、設計どおりに動くわけではありません。スキャモンの成長曲線は「質」と「量」のうち、「量」のみしか考慮していない。まずここが最大の問題なのです。

「即座の習得」の問題点

次に「即座の習得」の問題点についてです。

「即座の習得」、聞き慣れない言葉かと思いますが、これは旧東ドイツの教育学者クルト・マイネル博士が著した『運動学』という文献に登場する言葉です。

その意味は、9歳から12歳ぐらいまでの運動学習に見られる特徴で、新たな運動を少し経験したり、見たりしただけで、大まかにやってしまうことで、それは一生に一度だけ訪れるものであるということです。


↑出典『クリエイティブサッカー・コーチング 小野剛 大修館書店』

簡単に言うと、どのような運動でも器用に素早く習得することができる子ども時代特有の特徴であるということです。

「即座の習得」には前提条件がある

この理論を文字通り受け取ると、9歳から12歳の間にいろいろなスキルを習得させたほうがいいと考えられます。実際、私の経験では多くのスポーツスクールにおいて高度なスキルを習得させるようなプログラム構成をしているスクールがあります。

例えばある有名サッカースクールでは「小学5・6年生クラスではプレーの質を上げ、技術・判断スピードを向上させる」、さらに某Jリーグクラブのスクールは「小学5・6年生では専門的な技術を身につける。基本技術を習得し、習慣化する。実践的な技術を習得する。良い習慣を身につける」などとプログラムの説明を行っています。

運動を即座に習得できる年代ですから高度なスキル習得も可能であるとの考えによるプログラム構成だと思われます。しかし、「即座の習得」には前提条件があります。

高度なスキルも「基礎」がなければ習得できない

マイネル自著の中で「このようなすばやい学習が行われるのは、すでに豊富な運動経験をもち、見た運動に共感する能力がよく発達しているときだけである。」と述べています。「新たな運動を少し経験したり、見たりしただけで、大まかにやってしまうこと…」は、その前提としてさまざまな運動経験、これはサッカーや野球などの特定の競技ではなく基礎となる運動スキルの習得度合いによるということです。

言い換えると走ったり、跳んだり、投げたり、捕ったりなどの基礎的運動を十分に体験して、そこから身体操作性やコツのようなものを習得した子どもでないと「即座の習得」は望めないのです。したがって「即座の習得」をもって9歳から12歳までが運動学習最適期であると説明することは難しく、この点がゴールデンエイジ理論の持つふたつめの問題だと言えます。

「脳の可塑性(かそせい)」の問題点

最後は「脳の可塑性」についてです。これも聞き慣れない言葉ですね。

「脳の可塑性」とは発達段階の神経系が環境に応じて最適の処理システムを作り上げるために、よく使われる回路の処理効率を高め、使われない回路の効率を下げる現象と説明されています。簡単に言うと「使われる機能は発達し、使われない機能は退化する」ということです。

ゴールデンエイジ理論によると「脳の可塑性」は乳幼児期に高く、その時期を「感受期」や「臨界期」と呼び、成人に達する段階で低下し、成人期では可塑性はない、あるいはごく限られるものと言っているようです。

子どもの頃は脳が身体や運動を司る神経回路を作る時期であるため、子どもの時期が運動学習最適期であると言っています。ご存知かと思いますが近年、脳に関する研究が盛んに行われるようになっており、この「脳の可塑性」に関しても研究が進められています。

少し古い見解ですが文部科学省が「脳の可塑性」について中間報告を出しています。1)それには以下のように書かれています。

「感受性期(臨界期)は、学習は可能であるが効率は低くなる期間を指す。また、鳥類の「刷り込み」現象にその典型が見られるように、学習が可能な期間で,かつ,その時機を逃すと後で学習することがほとんど不可能な期間を「臨界期」という。(中略)人の各種脳機能における感受性期(臨界期)については,視覚などの一部の機能を除き、正確なことはほとんど解明されていない。」

また、理学療法の分野から「事故などで、ある身体機能を失った場合、他の身体部位や動作などで失われた機能や動きを代償する」という話をしばしば聞きます。この過程で神経が新たな回路を作ったり、動きを覚えたりするそうです。これらを総合してみると「脳の可塑性」についてはよく分かっていないということです。したがって子ども期特有の現象というのは難しく、運動学習最適期の基礎理論とすることは合理的ではないと思います。

スポーツ科学は歴史が浅い

「ゴールデンエイジ理論」とその問題点について見てきました。

ここまで述べたように一般の方やスポーツ界以外の分野にまで浸透している理論ですが、「正しく伝わっていない」あるいは「専門家でさえしっかりと理解できてない」という部分があります。

スポーツ科学は誕生して歴史の浅い学問であり、分かっていないことがたくさんあります。そのため一般に流れる理論が全て正しいとは限りません。

子どもの教育を振り返ってみましょう


↑子どもに正しく教えられているか

今回の「ゴールデンエイジ理論」もそのひとつです。これを機に子どものスポーツ指導に携わっている方やスポーツスクールに通わせている保護者の方々は、子どもたちのスポーツ活動について振り返ってみてはいかがでしょうか?

「子どもの能力や実力に合わないことをやらせていないか?」「低年齢で特定のスポーツばかりやらせていないか?」「しっかりと基礎的な運動はできているのだろうか?」などゴールデンエイジの間だけでなく、その後長期的なスポーツ活動を考えて教育をおこなっていきましょう。

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