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本当は怖い「スポーツ医学」【第1回 スポーツ整形外科とは?】

全てのスポーツに潜む怪我や故障の危険

古来からエンターテイメントや、人間形成の場として楽しまれているスポーツ。それぞれの競技で求められる身体能力や技術は異なるものの、全ての競技において切っても切れないものといえば、怪我や故障などのトラブルだ。

スポーツの現場では、打撲や捻挫などの比較的短い時間で完治する怪我から、骨折や靭帯の損傷などの長い時間を必要とする怪我、そして靭帯の断裂や神経の損傷など選手生命を脅かす怪我まで、あらゆる種類の怪我が発生する危険が潜んでいる。

読者の方も、一度はニュースで”アスリートが怪我で長期離脱する”という話題を耳にしたことがあるだろう。

今回はスポーツとは切っても切り離せない怪我や故障の恐怖について、Jリーグの「柏レイソル」や「川崎フロンターレ」のチームドクターとして数々の現場で実績を重ねたスポーツ整形外科の医師「武田 康志」先生にお話を伺った。

スポーツに打ち込んでいる選手本人はもちろん、選手の家族やトレーナーなど選手をサポートする立場の方も読んで欲しいこの連載。第1回目となる今回は、スポーツ整形外科とは何か、またその役目などを記していこう。

スポーツ整形外科とは?

ーー武田先生、本日はよろしくお願い致します。まずはスポーツ整形外科とはどのようなものか、基本的なことを教えて頂けますか?

スポーツ整形外科というと、一般の方にはあまり馴染みのないものだと思いますが、基本的な診断は一般の整形外科と変わりません。

しかし、診察に来た選手は現場に復帰させることが当たり前で、”より早く復帰させる”、”のちに影響がないように復帰させる”といったレベルの高い要求をされるのがスポーツ整形外科と考えていいでしょう。

一般の整形外科の診断・治療を行える認定医レベルの幅広い知識を持ちつつ、バランスのいい偏りのない判断ができることが重要です。

ーーバランスのいい判断とはどのようなことでしょうか?

スポーツ整形ではより早く復帰させることが目的にもあるため、適応を広げすぎて手術を行ったり、監督からの要望を聞き入れようとしすぎるあまり、現代の医学の通説よりも早くリハビリを行わせて状況を悪化させる、などの事態が起きています。

早期復帰ばかりに気を取られ、リハビリを急ぎすぎて痛みの再発を起こし、逆に治療期間が長引くことがないように、スポーツ医学の知識と自らの経験で復帰までのプランをたて、治療法は、西洋医学治療、東洋医学治療にこだわらず最適な手段をフラットな目線で選ぶということが大切になるのです。

例えば、ウェブサイトに”最新の技術”を使うことを謳っている病院がありますが、私自身の経験をいうと、選手や親御さん、指導者が求めているのは”最新の技術”ではなく”確実性があること”そして、”より早く復帰すること”です。最新の技術がすべての面で良いとは言えませんし、最新であるが故に”後に見直される”というリスクもあるのです。

仕事の流儀としてイメージするなら、自分は百貨店の外商のように意識しています。選手の症状にあわせて”一番いいと思うもの”を並べて選んでもらうという形ですね。

外商が顧客に提示する商品が、顧客からの要望を踏まえた上での自らのおすすめの品であるように、私共なら治療法となり、自らの経験からすすめる治療法、学会のすすめる治療法などを率直にお話しを提供するとなります......。

僕の後輩に「スポーツ整形外科」の道へ進みたいという者がいるなら、いきなりスポーツ専門の道に進むようにはアドバイスせず、「医者の人生の初期の10年で救急や外傷、そして整形外科全般をしっかり勉強し、一通りの分野を本気で勉強した後にスポーツの道に進め」と伝えます。

スポーツ整形の医師にもいろいろなタイプがあるので。

ーーいろいろなタイプとはどういったものでしょうか?

スポーツ整形を謳った病院に来た患者を診察するタイプの医師と、スポーツの現場を中心に活動するタイプ、そして自らの時間を省みず両方を行うタイプがあり、それぞれニーズが違うので、求められる能力も異なってきます。

病院で診察、治療するタイプの医師は、手術の技術に特化することが多くなりますが、スポーツの現場では、試合中の判断、手術に至らない怪我の予防、リハビリを早期に仕上げる努力をするところに価値があります。

僕は「柏レイソル」や「川崎フロンターレ」、日本体育大学のアメリカンフットボール部のチームドクターとして現場での仕事も積んできましたが、現場で最も発生するのは捻挫や打撲、肉離れなど手術に至らない疾患がほとんどです。そのような怪我をいかに早く、的確に、徒らに復帰までの時間を長引かせることなく治療できるかが重要です。

先ほどは一般的な医師としてのキャリアの磨き方について話しましたが、スポーツの現場でチームドクターとしてのキャリアに進むのなら、学会だけではなくどんどん現場に出て自分の経験値をあげること、またアメリカや他のチームドクターの治療法を見て取り入れる努力が必要になります。

いろいろなタイプがあると言いましたが、スポーツ整形医は「病院で患者を治療する」という医者としての役割と、チームドクターとして現場でメディカルマネージャーとして活躍する2つの側面があると考えていいでしょうね。

「プロスポーツチームにおけるドクターの役割」

ーーJリーグの「柏レイソル」や「川崎フロンターレ」で10年以上チームドクターを任されていた武田先生の考える「プロスポーツチームにおけるドクターの役割」とはどういったものでしょうか?

先ほども言ったように、現場でチームを見るドクターと、病院で患者を治療する立場とではニーズが異なるため、求められる能力も異なります。

特にスポーツの現場では打撲や捻挫、肉離れなどの手術が必要でない怪我が発生する場合のほうが非常に多いです。そのためチームドクターには、怪我の治療を行える能力はもちろん必要ですが、怪我が発生した選手のマネジメント、つまり「メディカルマネージャー」としての能力が求められます。

プロスポーツの世界では、怪我をした選手が試合に出場できるのか?現場で高いパフォーマンスを発揮できるのか?治療期間はどのくらい必要なのか?などの情報が瞬時に必要になります。

というのも、やはりチームは勝つことが最も重要なので、短い欠場でも代わりの選手の用意が必要ですし、長期離脱になるなら年内でも契約について見直さなければならない場合もあるからですね。リハビリはトレーナーが進めますが、小さな痛みなど頻繁に選手から訴えがあります、この際にしっかり診察して問題ない痛みなのか、このけがだと想定内の痛みなのかを判断して、必要があれば検査をして、問題ある痛みかリハビリを一時遅らせるべきかをドクターが判断します。痛みといってもすべて問題がある痛みばかりでありません。
選手の痛みに右往左往させられてリハビリをいたずらに遅らせることはできませんから。

また大きな怪我で長期離脱する選手が出た場合、自分も治療に当たりますが、自分よりもその部分の治療を得意とする医師を知っているなら選手に同行し、医師を紹介するという仕事もあります。ひとりで全ての怪我を治療するのではなく、”得意なものは自分で処理し、他に得意な人を知っている場合はその人にパスする。”そのためのネットワーク構築も大事ですね。

プロ選手の場合、治療費や移動費、宿泊費までチームが負担するので僕も静岡や埼玉、東京などまで行って専門性の高い先生に診てもらい、手術などもしていただきました。

ーーチームを医療面から支えるのが「チームドクター」ということですね。

そうですね、さらに専属チームドクターになれば、「そのチームの選手のことは誰よりも知っている」と言えるくらいになるまで選手と密接にコミュニケーションし、親密になっていきます。体のことだけでなく、メンタル面からも選手を支えるといった役割です。

当時は選手の彼女や家族のことまで相談を受ければ、病院の紹介などのマネジメントも私の仕事になっていました。そのため最後には「ドクターがそう言うなら仕方がない」、「復帰まで時間がかかるが、あのドクターのいうことなら我々も動こう」というところまで選手やフロント陣と信頼を築くことができたと考えています。

サッカーのフリーキックで例に出すと、中村俊輔選手が「俊輔が外したら仕方ない」という信頼を得ているように、「医療のことはメディカルマネージャーであるドクターに全て任せる」という信頼を得ることが最重要です。そのためには、地道な活動を続けられること、依頼を受けた場合にそれに応え続けられることが大切です。

今でこそチームドクターはそれなりの地位を得ることができていますが、ひと昔前はそうじゃなかった。その点Jリーグの発足時から「清水エスパルス」の初代チームドクターとして20年以上活躍している「福岡重雄」先生や、「横浜F・マリノス」のドクター「平沼憲治」先生は「よくぞあの黎明期乗り切ったな〜」と尊敬しています。

なにせ当時の「清水エスパルス」や「読売ベルディ」、「横浜F・マリノス」は「キング・カズ」らが在籍した、チーム全員が高すぎるほどのプロ意識を持った選手の時代でしたからね。

ーー昔に比べドクターの地位は向上しているのでしょうか?

う〜ん、一概には言えませんね。やはりチームとの関わり方次第です。どれだけチームから信頼を得てそれに応えるかというところに尽きますね。

当然といえば当然ですが、自経験では契約なんかも監督、選手、コーチときて最後の最後の最後にドクターですから。「えー来年はどうなるんやろー?」と心配なときもありました(笑)

毎年言われていたのが、「ドクター、今年もメディカルのことに誰も文句言わなかったですよ」ということです。「怪我の治りが悪かったから思うようなプレーができなかった」というような選手が出ないようにするのが、僕の仕事で、我々への褒め言葉ですね(笑)

ーー本当にメディカルマネージャーとしての側面が強いですね(笑)

そうですね、サッカーの現場で多い怪我なんて捻挫・打撲・肉離れ・腰痛・筋膜炎くらいもものです。「ドクターの治療が必要か?」と言われたらそうじゃないんですよね。(笑)

特にシーズン中に選手に痛みやケガが出た場合、痛みがよくない痛みか、問題ある痛みかを正確に診断し復帰までのおよその日数をすぐに提示し、監督がチームの采配を取りやすくするのがチームドクターとしての仕事です。

上記の怪我のように見えて、実は怖い怪我の場合もありますからね。

ーー具体的にはどんな怪我があったのですか?

「手首の捻挫に見えるけれど、実は舟状骨(手首の親指側の骨)の骨折だった」なんてことはありますし、打撲した場合に靭帯の近傍など打ち所が悪いと「靭帯損傷」と同じ症状、同じだけの復帰期間になる事もあります。また、後ろからそれほど強くないチャージされた後に息苦しくなり、肺がしぼんでしまう「気胸」になり、救急搬送した事もあります。

チームドクターとしての経験値が上がったので、なかなか判断違いはしなくなりましたが、90年代初期の方は本当に苦労しました。全てが初めての経験だったので、ほかのチームのドクターと横の繋がりで事例の話を聞いたりして、教科書的なノートをつくっていました。

ーー軽い怪我に見えるものでも実は重大な怪我が潜んでいたりする場合があるんですね。

うーん、プロの場合はほとんどないですね。しっかり我々が見ているので、一般の方の場合は有り得ますが......。

ーー一般の場合だと有り得るんですね......。次回はその問題について深くお聞きしたいと思います。

第2回は「スポーツ外傷時の病院の選び方」について

プロスポーツにおけるチームドクターの役割について語って頂いた今回。なかなか表に出ない話なので、興味深かった人も多いだろう。次回は自身でもクリニックを運営する武田先生に「スポーツ外傷時の病院の選び方」について伺う。