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リズム指導で広がる運動の可能性。トップ選手以外にも有効な「音」

一流アスリートが発する音の力「スポーツオノマトペ」【下】

スポーツにおける動きのリズムを表した音と、選手が発する掛け声を「スポーツオノマトペ」として探求を重ねているのは、テレビ、ラジオ番組や新聞でコメンテーターとして活躍するオノマトペ研究家の藤野良孝さん。
前回の記事ではさまざまなアスリートの「スポーツオノマトペ」の事例を紹介した。

今回は、ビギナーや小学生にも当てはまる「スポーツオノマトペ」の効果について解説する。

1日でスコア上昇

「スポーツオノマトペ」はトップアスリートだけの術ではありません。正しい音を使って、正しい声を出せば、多くの人にプラスの効果が期待できます。
オノマトペの声で、ボウリングの苦手な女子学生のスコアがアップした話があります。そのときに用いたオノマトペは、「ターン、ターン、タタッ、パッ」。私がある番組で共演した女子プロボーラーを観察し、その投球動作を運動過程ごとに音化したものです。

「ターン」で右足、次の「ターン」で左足を大きく1歩出し、次の「タタッ」でやや小さく右足、左足と続けて出します。この「タタッ」のときに、ボールを持った腕を後ろに引き「パッ」で腕を前に振って放ちます。

この女子学生は、このリズムをつぶやきながら1日練習しただけで、平均スコアが80~90台から120を超えるようになりました。

音を出して思い込みを外す

正しい運動リズムを音からダイレクトに体に働きかけ、繰り返したということがパフォーマンスアップにつながったのだと思います。音を出す時間の長さや強さなどによって、誰にでも、自分の筋力にあった歩幅や投げるタイミングを調整することができます。

何よりも、オノマトペをつぶやくことで、「ボウリングのセンスがない」と思い込んでいるリミッティング・ビリーフ、つまり「できない」という思い込みの意識が外せます。「ターン、ターン…」と自分が出す声に集中すれば、「できない」という邪念がなくなります。

小学生ほぼ全員が跳び箱に成功

教育機関やテレビ番組の依頼で、小学生に跳び箱など運動の指導をすることがあります。跳び箱を教える時に私は「サーッ・タン・パッ・トン」というリズムを導入します。これによって、ほぼ全員が上手に跳べるようになります。

「サーッ」は助走。
「タン」は踏み切り。
「パッ」で手をついて、「トン」と跳ぶ。
この四つの運動局面を声にしながら、動きをマスターさせていきます。動きのイメージを完全にインプットできたら、口に出す必要はありません。フォームが定着すれば跳ぶ自信がつき、跳べない、怖いというリミッティング・ビリーフが外れますね。

また、出来ない子どもには個別に微調整をおこないます。たとえば、「タン」で踏み切る力が弱いなら「ダン」と濁音を発声させる。清音の「タン」より力強く蹴る意識ができます。跳び箱に手がつく「パッ」で、手前について跳びにくいなら「パーッ」と伸ばしてみよう、と教えます。自然と手も伸びるので、より遠くに手をつけるようになります。

オノマトペを使った上達のコツ

まずひとつ目は、脳科学者の林成之先生から直接アドバイスをいただいた「間合いをとる」こと。
子どもの運動能力には個人差があります。だから、最初は「サーッ・タン・パッ・トン」の間合いを好きなようにやらせます。その上で、「タン・パッ」をもう少し速めてみようなどと、子どもに合わせて段階的に声掛けをすることが有効です。

そしてふたつ目は、恥ずかしがらず、ポジティブな声を出してほしいということです。自信のない声はその通りのパフォーマンスにしかなりません。低音よりも高音のほうが、スピード感が出るように、抑揚をつけることも大事です。

また、繰り返しおこなうことが重要で、抑揚の調整から、動きのコツの新しい発見や気付きが生まれます。それによってタイミングや加減などをより優れた状態に進化させられると思います。

どんな音や声が作用しやすいのか

運動に適した音を知ることも大事です。(インタビュー上の事例から)ハンマー投げの室伏さんの「ンガーッ!」で言えば、「ン」と力をためて「ガアーッ!」と放出しています。撥音(はつおん)「ン」と濁音「ガ」の組み合わせで、最後が「ア」の長母音で構成されていますね。

音についてさらに詳しくお話すると、母音の「ア」「オ」は エネルギーが外側に向かい、「イ」「ウ」 は内側に向かうイメージ。「サ」「ス」などの静音はスピードを、「グ」「ガ」などの濁音はパワーを、「ポン」「パン」など破裂音は弾む感じを生み出します。

さらに、特殊拍の撥音「ン」は、パワーをためます。伸ばす「長音」は動作の持続時間を表し、促音の小さい「ツ」は動きにメリハリをつけます。音にはそれぞれ違った作用があるわけです。

教える側、受ける側に大切なこと

大事なことは選手をよく観察することです。動きを再生するために、ビデオカメラのような目線で見て、相手の脳に入り込むような意識が重要です。そうすることで、選手に適した動きをオノマトペのリズムで置き換えやすくできます。

かつて、松井秀喜さんは、オノマトペを駆使した長嶋監督の指導が「分かる」と言っていました。それは監督が一流の観察眼で、選手に分かるように音をフィードバックできたということではないでしょうか。「ここで力を入れて」では分かりづらい。でも「グゥーン(↑)」と言えば、押し込んでから上げる、というイメージができませんか? 感覚の足りないところをオノマトペで補うことができるのです。

長嶋さんの指導は「天才にしか分からない」と言われてきました。使う音や声の抑揚、身振り手振りの動き、そういった部分を多くの人が見過ごしていたわけです。抑揚をつけた「ビュー!」や「バシン!」という音の感じと併せ、身振り手振りを見ながら聞くとイメージしやすくなります。文字の意味ばかりに注目するのではなく、リズムを感じることが大切だと思いますね。

指導者の方々へ

スポーツ指導には、科学的なデータが欠かせません。しかし、運動の感覚的な部分を科学的、厳密的に伝えようとする視座から引き起こされる「複雑さ」や「分かりにくさ」があるのも事実だと思います。
私は、データだけでは上手に表現することができない感覚的な部分を音のリズムで知らせることによって、手の届かない内容を伝える可能性を広げられると考えています。オノマトペは、そうした局面において、補助的に活用していただけたら幸いです。

【プロフィール】 藤野良孝(ふじの・よしたか)
1977年東京都生まれ。オノマトペ研究家・コメンテーター・評論家。博士(学術)(総合研究大学院大学)。朝日大学保健医療学部健康スポーツ科学科准教授。早稲田大学国際情報通信研究センター招聘研究員、早稲田大学ことばの科学研究所研究員。
国立大学法人総合研究大学院大学文化科学研究科博士課程修了後、文部科学省所管独立行政法人メディア教育開発センター研究開発部助教、東京田中短期大学こども学科非常勤講師、朝日大学経営学部ビジネス企画学科准教授、スポーツ言語学会理事などを経て現職。
調査・実験で発見したオノマトペの効果について、テレビ、ラジオ、雑誌などメディアで解説している。
「一番大事なのはワクワクすること。オノマトペの研究は楽しくて、のめり込んでいるので全く苦になりません。子どもたちからの『鉄棒ができるようになりました』『跳び箱が跳べました』という手紙が僕の宝物です」。

【オフィシャルブログ】 https://ameblo.jp/fujinoyoshitaka/

【著書紹介】 「『逆上がり』だってできる!魔法の言葉オノマトペ」(青春出版社)、「マイナスな心の片づけかた」(自由国民社)、「毎日の生活が楽しくなる「声の魔法」1巻~3巻」(くもん出版)、「運動能力がアップする声の魔法1巻~3巻」(くもん出版)など多数。
今回の藤野先生のインタビューに深みを持たせるのは近著「魔法のことばオノマトペ」。ジュニア向けだが中高生にも、もちろん大学生以上のアスリートや指導者の方々にもおススメの一冊。さらに「声の魔法のひみつ」など大判シリーズは、大人でも面白く読めて、オノマトペの仕組みをさらに端的に理解できる。教育現場の方々にぜひ読んでほしい。
(インタビュー・構成 松下勇桔)