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桐生・羽生・張本らの「スポーツオノマトペ」 一流アスリートが発する「音」の力とは

一流アスリートが発する音の力「スポーツオノマトペ」【上】

スポーツにおける動きのリズムを表した音と、選手が発する掛け声を「スポーツオノマトペ」として探求を重ねているのは、テレビ、ラジオ番組や新聞でコメンテーターとして活躍するオノマトペ研究家の藤野良孝さん。
一流アスリートの事例も多数交え、いろいろな動きに当てはまる「音」の感覚や「掛け声」がもたらす効果、そしてその実践と指導法について、分かりやすく解説してもらった。

まずオノマトペとは

擬音語擬態語をまとめた言葉です。
擬音語はアヒルが「ガーガー」鳴く、扉を「ばたん」と閉めるなど、声や物音を示したものです。
擬態語は「もぐもぐ」「むしゃむしゃ」「すっきり」など様子や心情を表したものです。言葉にすることが困難な感覚を表現することができます。

たとえば世界に誇る日本の漫画は、オノマトペの宝庫です。登場人物が話す吹き出しとは別に、背景に入れられた音の文字がそれです。キックしている足の背景に、「ボン!」「ドン!」などの音が入っていると、強烈なキックが繰り出されている様子がよく分かりますよね。
絵という視覚情報にオノマトペを入れることによって、聴覚的な情報が付与されるので、物体や人物が動き出すかのような臨場感、躍動感が生まれてくるのです。

スティーブ・ジョブズには、かつて「オノマトペの魔術師」という異名がありました。
製品のプレゼンで、注目してほしいときなど、「ブン」と自ら発していました。そうすることによって人の気持ちを掴み、惹きつける効果がありますね。

このように、オノマトペを様々な場面に応じて有効活用することで伝達力、表現力、説得力などにプラスのはたらきを与えることが期待できるのです。

興味を持ったきっかけは

私がオノマトペの研究を始めたきっかけのひとつは、プロ野球巨人の終身名誉監督・長嶋茂雄さんの指導法からです。草野球をしていた父が、長嶋さんの大ファンでしたので、小学生の私とキャッチボールをするときも「シュッと投げる」「グッと力をいれる」などオノマトペでコーチングしてくれました。

その際、長嶋さんのエピソードもたくさん話してくれました。
長嶋監督は選手に対して、「ビューッと来たらバシンと打て」というような指導をしていたと言われています。この指導を受けて、元広島カープの前田智徳選手が、その直後の試合で本塁打を連発したという伝説があるほどです。

これが本当に選手に伝わるのかと疑問に感じ、その深層心理を解明したいと思ったのが動機です。つまり、幼い時に、現在にわたる研究の芽が出ていたということですね。

一流アスリート達のオノマトペ

調査を進めていくと、一流のアスリートほど独自の「音」を持っていることが分かりました。たとえば先ごろ、陸上男子100メートルで9秒98の日本新記録を樹立した桐生祥秀選手。彼は以前、10秒0台の好記録を出したときに、走った感じを「スーッといってバーン」と語っていました。

スポーツ選手は、良かったときの動きをいかに再生するかということが大事なので、記憶を引き出すのにオノマトペを使うのが実に有効だと考えられます。あのときは「スーッといってバーン」だったな、と動きの感覚が鮮明に蘇りますよね。

フィギュアスケートの羽生結弦選手は、ループのコツを聞かれたときに、「シュッと跳べばいい」と答えたそうです。音のリズムと動きとが直結して、表現しやすいということがあるのでしょう。

サッカー元日本代表の岡野雅行さんは、新聞記事で「『スーッ』とパスが来たら、『ズドーン』とシュートを打とうなどと、自分のプレーを思い描くときも使っていた」と語っていました。また、オノマトペのプレーイメージと、実際の動きが一致したときにゴールが決まったとも言いました。

やはり音には、理想的な動きの実現に作用する効果があるのではないでしょうか。

選手の声もオノマトペ

選手の「掛け声」は意味のない音にも聞こえますが、いろいろなアスリートに聞いて事例を集めていくと、実は意味があるのです。シャウトということでは「あ」でも「お」でもいいはずなのですが、実際はこの声を出すと力が出る、スピードが出る、リズムがとれる、タイミングが合う、リラックスできる、やる気を高める、集中できるなど、心理的や身体的に作用するさまざまな効果があったのです。

そこで、この身体にはたらきかける音と、体育・スポーツで使用されるオノマトペを合わせたものを、「スポーツオノマトペ」と命名しました。

アスリートはどんな声を出すのか

スポーツ界の叫び声で有名なのは、陸上ハンマー投げの室伏広治さんですね。「ンガーッ!」などの声を発したときの投てきが、その日のベストパフォーマンスになることが記録から示唆されました。この声によって爆発的な力が出ていたのですね。

妹の由佳さんに聞いてみたところ「兄は回転のタイミングが合わないと声が出ないと思います」とのことでした。推察した通り、「声」という要素が室伏さんにとってパフォーマンスのバロメーターになっていることが分かりました。

卓球選手の叫ぶ効果

10代前半で世界トップの実力者となった卓球の張本智和選手の「チョレイ!」。あのおたけびには、自分を奮い立たせる意味もあると思いますが、実はリラックス効果もあります。

卓球の発声といえば福原愛選手の「サーッ!」が顕著ですが、福原選手はリラックスするために発していると言っていました。

「サーッ!」や「チョレイ!」などの掛け声には、呼吸法をしていることと同じような働きが考えられます。あれだけ大きな声を出すためには、空気を多くお腹に入れないといけませんので、掛け声とともに呼吸法のように心身をリラックスさせ、より良い心理状態に近づけていると考えられます。

福原選手はどうやって身に付けたのか

福原選手は、中国で活躍していたある選手の掛け声を真似して取り入れたと言っていましたね。声の中に潜むエネルギーにビビッときたのではないでしょうか。
その選手を真似て声を出していくうちに、自分でリラックスの効果が高いということに気づいたのだと思います。

これに気付いたことで、掛け声がベストなパフォーマンスを出すためのルーティーンになったのかもしれません。「よし、声が出た。調子がいいんだな、大丈夫!」と、「サーッ!」の声から身体のリズムをコントロールし、パフォーマンスを上げることができたのだと考えられます。

あのイチロー選手も声を

メジャーリーガーのイチロー選手も声を出しているのをご存知ですか? 試合中継を見るだけでは分からないのですが、彼に密着した映像を集めると、バッティングのときに必ず声を出していることが分かりました。「フン」「フンー」「フンーー」と呼気の長短によって力の出し方をコントロールしていると思われます。

声を吐き終えるまでの時間の長さと、動きの長さには密接な関係があるので、これがあの巧みなバッティングの一助となっていたのではないでしょうか。この真意について、いつかイチロー選手に直接聞いてみたいと思います。

【下】に続く。次回はスポーツ指導に使えるオノマトペ。その驚きの効果を紹介します。

-藤野良孝(ふじの・よしたか)
1977年東京都生まれ。オノマトペ研究家・コメンテーター・評論家。博士(学術)(総合研究大学院大学)。朝日大学保健医療学部健康スポーツ科学科准教授。早稲田大学国際情報通信研究センター招聘研究員、早稲田大学ことばの科学研究所研究員。
国立大学法人総合研究大学院大学文化科学研究科博士課程修了後、文部科学省所管独立行政法人メディア教育開発センター研究開発部助教、東京田中短期大学こども学科非常勤講師、朝日大学経営学部ビジネス企画学科准教授、スポーツ言語学会理事などを経て現職。
調査・実験で発見したオノマトペの効果について、テレビ、ラジオ、雑誌などメディアで解説している。
「一番大事なのはワクワクすること。オノマトペの研究は楽しくて、のめり込んでいるので全く苦になりません。子どもたちからの『鉄棒ができるようになりました』『跳び箱が跳べました』という手紙が僕の宝物です」。
【オフィシャルブログ】 https://ameblo.jp/fujinoyoshitaka/